ネオ・エクスプレッショニズム

概要

ネオ・エクスプレッショニズムは、1970年代末〜1980年代前半にドイツ・イタリア・アメリカで起きた絵画復活のムーブメントです。ミニマリズムやコンセプチュアル・アートが主流だった時代に、分厚い絵具・激しい筆致・歪んだ人物像で「熱い絵画」を再提示しました。ポップ・アートの先駆者フィリップ・ガストンの政治的表現も重要な転換点となり、このムーブメントは単純な回帰ではなく「前衛を通過したポストモダン的絵画」として位置づけられます。

出典:wikiart
Painting, Smoking, Eating
Philip Guston(フィリップ・ガストン)
Date: 1972

出典:MoMA
Philip Guston(フィリップ・ガストン)
City Limits
1969

ガストンはKKKフード姿を、自らも「フードの内側にいる存在」として重ね合わせ、悪と白人としての加担性を自己批評的に問い直す寓意的イメージとして描きました。

出典:TATE
Philip Guston(フィリップ・ガストン)
The Line 1978

ネオ・エクスプレッショニズムは国によって異なる展開を見せます。ドイツは荒々しい筆致で歴史と身体を描く「新しい野獣たち」、アメリカは巨大キャンバスとマーケットが連動した「絵画復興」、イタリアは前衛を通過した後に物語へ回帰する「トランスアヴァンギャルディア」としてそれぞれ展開しました。

サンドロ・キア

出典:MoMA
Sandro Chia(サンドロ・キア)
The Idleness of Sisyphus
1981

出典:MoMA
Sandro Chia
Mechanical Figure I
1982

フランチェスコ・クレメンテ

出典:wikiart
Fire
Francesco Clemente
Date: 1982

出典:wikiart
Sun
Francesco Clemente
Date: 1980

エンツォ・クッキ

出典:wikiart
Il Sapore Delle Lune
Enzo Cucchi
Date: 1983; Italy

出典:wikiart
Sopra-piume
Enzo Cucchi
Date: 2007

ニコラ・デ・マリア

出典:wikioo
Senza titolo (335) – (Nicola De Maria)

ミンモ・パラディーノ

出典:wikipedia commons
Studio carlo signorini su dis. di mimmo paladino, vanità, 1988

アンゼルム・キーファー

アンゼルム・キーファーは、藁や鉛、土などの重い素材と、焼け跡のような荒れた風景を組み合わせることで、作品そのものを戦後ドイツの記憶を刻む歴史資料のように作り上げた画家です。 荒野の地平線や灰色の空の中には歴史的な言葉や地名が書き込まれ、鑑賞者は一枚の絵を前にしながら、風景とドイツの近現代史のあいだを行き来しつつ、ナチズムやホロコーストの記憶と向き合うことになります

出典:TATE
Lilith
1987–9, Anselm Kiefer

出典:BBC
Iron Path by Anselm Kiefer, 1986

出典:TATE
Man under a Pyramid
1996, Anselm Kiefer

ゲオルク・バセリッツ

ゲオルク・バセリッツは、人物やモチーフを上下逆さまに描くことで、誰が描かれているかという物語性を弱め、荒々しい筆致や厚い絵具の塊といった絵画の物質性と構造そのものに視線を集中させることを狙った画家です。

出典:wikiart
Female Nude on a Kitchen Chair
Georg Baselitz
Original Title: Weiblicher Akt auf Küchenstuhl
Date: 1979

出典:wikiart
Adieu
Georg Baselitz
Date: 1982

ジュリアン・シュナーベル

出典:TATE
Humanity Asleep
1982, Julian Schnabel

出典:MoMA
Julian Schnabel
Portrait of Agnes Gund
2021

ジャン=ミシェル・バスキア

ジャン=ミシェル・バスキアは、ニューヨークのグラフィティ文化から生まれ、王冠や骸骨、黒人ミュージシャンの名前といったモチーフを、荒い線と鮮烈な色で大画面のキャンバスに叩きつけた画家です。 その作品には、アフロ・アメリカンの歴史や都市の暴力、個人の怒りが、まるで即興演奏のようなリズムで込められており、80年代ネオ・エクスプレッショニズムの代表的存在でありながら、人種差別やアイデンティティという政治的テーマを内側に宿らせています。

出典:wikipedia
Untitled (Skull) (1981)
Jean-Michel Basquiat

出典:Whitney Museum
Jean-Michel Basquiat
Hollywood Africans
1983

出典:Whitney Museum
Jean-Michel Basquiat
Untitled
1982

出典:Whitney Museum
Jean-Michel Basquiat
Untitled
1982

ネオ・エクスプレッショニズムは、ミニマル・アートやコンセプチュアル・アートの「冷たい知性」のあとに登場し、荒々しい筆致や厚い絵具、身体的なジェスチャーと物語性のあるモチーフで、絵画に感情と生命をふきこんだムーブメントです。 戦争責任や国家のトラウマ、ストリート文化とアイデンティティ、神話や歴史の再解釈といったテーマが大画面にぶつけられ、その後の「新しい具象」や90年代以降、そして現代の絵画にも大きな影響を与え、「絵画は何度でも蘇る」というメッセージを現代アートに刻みました。

ネオ・エクスプレッショニズム(その他アーティスト)

出典:wikiart
Besiedlung des Mondes
A. R. Penck(A.R.ペンク)

出典:MoMA
Markus Lüpertz(マルクス・リュペルツ)
Landscape #2
1998

出典:MoMA
Markus Lüpertz(マルクス・リュペルツ)
The Large Spoon
1982

出典:TATE
Calm Down in a Diary (Diptych) 1982
David Salle(デイヴィッド・サーレ)

出典:TATE
Artwork Caption
Satori Three Inches within Your Heart
1988, David Salle(デイヴィッド・サーレ)

出典:TATE
High and Low
1994, David Salle(デイヴィッド・サーレ)

出典:MoMA
Eric Fischl(エリック・フィシュル)
Untitled from Floating Islands
1985

出典:TATE
Untitled from the Heavy Burschi series
1989, Martin Kippenberger(マルティン・キッペンベルガー)

出典:TATE
The Raft of Medusa
1996, Martin Kippenberger(マルティン・キッペンベルガー)

出典:TATE
Kippenberger on the Theme of Fucking, Boozing and Selling
1982, Martin Kippenberger(マルティン・キッペンベルガー)