リレーショナル・アート
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概念
リレーショナル・アートは、モノとしての作品よりも、人と人の関係やそこで生まれるコミュニケーションそのものを「作品」とみなす考え方です。キュレーターのニコラ・ブリオーは、著書『関係性の美学』の中でこの傾向を整理し、「人間関係とその社会的文脈を出発点とする一連の実践」と定義しました。1996年にボルドーで企画された展覧会では、この概念がキュレーションの軸として提示され、以後「リレーショナル・アート」という呼び名が国際的に普及していきます。
リクリット・ティラヴァーニャ
出典:The Museum of Modern Art
Rirkrit Tiravanija | Untitled (Free/Still)

出典:MoMAps1
untitled 1992-1995 (free/still)
リクリット・ティラヴァーニャは、ニューヨークの303ギャラリーで、タイカレーを作って来場者に無料でふるまう《untitled (free)》(1992年)作品を発表しました。ギャラリーは展示空間というより「台所付きの集会所」となり、観客は作品を眺めるのではなく、食事をしながら他者と会話する参加者へと変わります。このようにリレーショナル・アートでは、残るオブジェクトよりも、「その場でどんな関係が生まれたのか」が重要になります。
フィリップ・パレーノ/ピエール・ユイグ
フィリップ・パレーノとピエール・ユイグは、1999年に日本のマンガキャラクター販売会社から、物語も個性も持たない安価なアニメキャラクター「アンリー」の版権を購入しました。二人はティラヴァーニャ、ギリック、ゴンザレス=フォルスターら約15名の作家にこのキャラクターを提供し、それぞれが映像や絵画、音楽などの形でアンリーに独自の物語を与えました。プロジェクト最終段階では、アンリーの版権をキャラクター自身の名義の法人に移し、誰にも使えないようにしています。一人の作者が一つの作品を所有するという常識を、共有と放棄という行為で問い直した共作プロジェクトです(《No Ghost Just a Shell》1999–2002)。ゴンザレス=フォルスターは、展示空間を本や映像、家具で満たし、訪れた人がそれぞれの過ごし方を選べる環境をつくります。完成された作品を見せるのではなく、観客が空間の中で過ごすこと自体が作品です。
出典:Art21
Pierre Huyghe: "Anlee" | Art21 "Extended Play"

出典:Artforum Media
Pierre Huyghe and Phillippe Parreno, The Ann Lee Project, 2002.
リアム・ギリック

出典:wikiart
Liaison Structure
Liam Gillick
Date: 2005

出典:wikiart
Returning to an Abandoned Plant
Liam Gillick
Date: 2007
カールステン・ヘラー

出典:wikipedia
Test Site by Carsten Höller at the Tate Modern, London.

出典:wikipedia
Test Site at the Tate Modern
出典:VernissageTV
VTV Classics (r3): Carsten Höller: Test Site. Tate Modern, London (2006)
フェリックス・ゴンザレス=トレス

出典:wikipedia
"Untitled" (Portrait of Ross in L.A.)
リー・ミンウェイ
出典:Lane216East
LEE Mingwei: The Mending Project
リー・ミンウェイは、リレーショナル・アートの中でも、親密さとケアの側面に焦点を当てる作家です。彼は他者の衣服を無料で修繕する《The Mending Project》や、見知らぬ人と一対一で食事をするプロジェクトなどを通じて、「知らない誰かと信頼関係が生まれる瞬間」そのものを作品化してきました。そこでは、アーティストと参加者だけでなく、参加者同士の感情のやりとりが蓄積されていきます。
出典:The University of Chicago
リー・ミンウェイ:ダイニング・プロジェクト
出典:TATE
アーティスト、リー・ミンウェイの迷宮へ | テート
現代において、リレーショナル・アートの発想は、コミュニティアート、都市のワークショップ型プロジェクトなど、より広い「参加型」「協働型」の実践につながっています。鑑賞者はもはや作品の外側から評価する「観客」ではなく、その場をともにつくる「創作者」へと変わりました。リレーショナル・アートは、「作品=オブジェクト」という前提を離れ、「作品=人と人との一時的な関係」という考え方を押し広げたことで、2000年代以降の参加型アートやソーシャルプラクティスに影響を与えました。


