グローバル・コンテンポラリー
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概要
グローバル化の加速を経て、現代アートの地図は「ヨーロッパとアメリカ中心」という構図から、大陸をまたぐ多極的なネットワークへと変化しました。
1989年以降、アジア、ラテンアメリカ、東欧、中東、アフリカなど各地のアートシーンが、ビエンナーレや国際展、美術館ネットワークを通じて一斉に可視化され、この状況はグローバル・コンテンポラリーと呼ばれます。
ここで紹介する作品の特徴は「どこの国の美術か」というラベルを超えて、ポストコロニアル、グローバル資本主義、移民・難民、ポスト社会主義といった地球規模の歴史と政治を作品に刻み込んでいる点にあります。
アイ・ウェイウェイ
中国出身のアイ・ウェイウェイ(1957年北京生まれ)の《Sunflower Seeds》(2010)は、テート・モダンのタービンホールの床に1億個の磁器製ひまわりの種を敷き詰めた作品です。種はすべて、磁器の都として知られる景徳鎮で1,600人以上の職人が約2年半かけて手作業で成形・絵付けしたもので、深さ10センチ、1,000平方メートルにわたる灰色の砂利のような広大な地面として広がります。ここには、文化大革命期のプロパガンダで毛沢東を太陽、人民をひまわりに見立てたイメージへの批評(彼の種は誰の方も向かない断片化された個の集合)、貧しい時代でも友人と分け合った庶民の温かい記憶、伝統工芸と「Made in China」の大量生産の矛盾などが、幾重にも重ね合わされています。彼の活動はこれにとどまらず、地中海を渡る難民のゴムボートを再現した《Law of the Journey》(2017)や、ベルリン・コンツェルトハウスの柱をレスボス島で集めた14,000着の救命胴衣で覆ったプロジェクトなど、難民や政治弾圧を扱う作品にも広がっています。アイ自身も2011年に北京で81日間拘束された経験を持ち、芸術と政治活動が分かちがたく結びついた作家です。

出典:wikipedia
Ai Weiwei's Sunflower Seeds, Tate Modern

出典:wikipedia
『ひまわりの種』
ドリス・サルセド
出典:Tate
ドリス・サルセド – Shibboleth | TateShots
ドリス・サルセドは、暴力と喪失の記憶を描いたインスタレーション作家です。テート・モダンの床に長大な亀裂を生じさせた《Shibboleth》では、タービンホール全長にわたる溝が、場所によって細いひび割れから幅数センチ・深さ数十センチへと変化し、観客はその裂け目をまたぎ、覗き込み、ときに迂回しながら歩くことになります。タイトルの「シボレス」は、聖書において「発音の違いで仲間と他者を見分ける合言葉」を意味し、言語・人種・国籍による見えない境界線、ヨーロッパと旧植民地世界、移民たちの排除を象徴しています。
サルセドは、テーブルや椅子、衣服、靴、コンクリート、バラの花びらなどの身近な素材を用いながら、内戦や強制失踪で行方不明になった人々の「不在」を、重く沈黙した空間として提示します。
サンティアゴ・シエラ
出典:Santiago Sierra
LÍNEA DE 250 CM TATUADA SOBRE 6 PERSONAS REMUNERADAS
サンティアゴ・シエラは、グローバル資本主義と労働搾取をそのまま作品化するアーティストです。代表作《250 cm Line Tattooed on 6 Paid People》では、最低賃金と引き換えに6人の労働者の背中に一直線の刺青を入れさせ、「労働」と「傷」を交換可能なものとして扱いました。不快なまでに露骨なこの作品は、アートもまた搾取の構造から自由ではないことを観客に突きつけます。
スボード・グプタ
スボード・グプタは、ステンレス食器や鍋、自転車、ガスボンベといった日用品を巨大な彫刻やインスタレーションに変換する作家です。《Very Hungry God》では、無数のステンレス製の容器を組み合わせて、きらめく巨大な骸骨をつくり、インドの台所の器=家庭と記憶の象徴を、消費社会と死のイメージに重ね合わせました。ピカピカの皿や鍋が山のように積み上がる彼の作品は、一見、魅力的ですが、その背後には、ポストコロニアルな経済成長の中で膨張するインド中産階級の生活、農村から都市への移動、伝統的な共同体とグローバル消費文化の衝突が潜んでいます。こうしてグプタは、「台所の器」というごく身近なモチーフを通じて、グローバル資本主義とアイデンティティを語る彫刻的メタファーを作り出しているのです。本作は、2007年のヴェネチア・ビエンナーレに出品され、世界的な注目を集めました。

出典:Pinault Collection
Very Hungry God
2006
アニッシュ・カプーア

出典:wikipedia
Cloud Gate

出典:Lisson Gallery
Anish Kapoor
void
イリヤ&エミリア・カバコフ
出典:Prof Simon - Science Filmmaker
The man who flew into space from his apartment
イリヤ&エミリア・カバコフです。イリヤは、当時ソ連の一部だったウクライナのドニプロペトロウシク生まれで、モスクワで活動した後、80年代末に西側へ移住しました。代表作《The Man Who Flew into Space from His Apartment》では、薄暗い共同住宅の一室がまるごと再現され、住人が自作の装置で天井を突き破って宇宙へ飛び去った、という架空の物語が、空っぽの部屋と穴の空いた天井だけで暗示されます。ソ連体制の記憶と市民の日常、挫折したユートピアへの憧れを、観客が歩いて体験するインスタレーションとして提示しているのです。
グローバル・コンテンポラリーのアーティストたちは、「どのような世界・場所の力学を可視化するか」という視点で作品を制作しました。中国の監視社会、ラテンアメリカの暴力の記憶、移民労働と搾取、ポストコロニアルな消費文化、グローバル都市の公共空間、ポスト社会主義の残像。そうした多様な文脈が「欧米中心」以後の現代アートの新しい姿と言えるでしょう。
グローバルコンテンポラリー(その他アーティスト)
出典:Pérez Art Museum Miami
レアンドロ・エルリッヒ
リミナル
出典:Louisiana Channel
Artist Yael Bartana: Imagine Something Different | Louisiana Channel
Yael Bartana(ヤエル・バルタナ)
出典:Fruitmarket
Stan Douglas at The Fruitmarket Gallery 7 November 2014 - 15 February 2015
スタン・ダグラス
