ソーシャルプラクティス
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概要
ソーシャルプラクティスは、「人と人の関係」や「社会の変化」を重視するアートの領域であり、コミュニティアートとも深く結びついています。ギャラリーに置かれたオブジェではなく、地域の人々との対話やワークショップ、建物の再生や制度づくりといったプロセス自体が作品の中心になります。
スーザン・レイシー
出典:Tate
スザンヌ・レイシー – シルバー・アクション | BMW テート・ライブ
メル・チン

出典:art21
Revival Field
メル・チンは、環境問題や社会的不正義に対して、科学者やコミュニティと協働するプロジェクトを行う作家です。《Revival Field》(1991–)は、ミネソタ州にあるカドミウムや亜鉛で汚染された連邦スーパーファンド指定地で始められた作品です。チンはUSDAの農学者ルーファス・チェイニー博士と協働し、土壌から重金属を吸収する特殊な植物「ハイパーアキュムレーター」を、照準器のような十字に区切った円形の畑に植え込みました。植物の力で土壌を浄化する手法を、アート作品として実体化させた先駆的な試みです。チンにとって作品とは、環境や社会の問題を可視化し、科学とコミュニティを動かして実際に変化を生み出すための仕組みなのです。
Swoon(スウーン)
Swoon(スウーン)は、被災地や衰退した地域でのコミュニティプロジェクトに力を入れている作家です。ハイチ地震後の《Konbit Shelter》では、被災した村で地元の人々と協力し、土と「スーパーアドビ」という工法を使ってコミュニティセンターや住宅を建設しました。現地の住民は、建設過程に参加することで技術を学び、その後も自分たちの手で家を増やしていくことができるようになります。このプロジェクトでは、建物そのものより、「一緒に作る過程で生まれる信頼関係や、地域の中に新しい拠点ができること」が重視されています。アーティストは外から来て作品を置いていくのではなく、コミュニティとともに生き続ける場を育てているのです。
出典:The Museum of Contemporary Art
Swoon's Konbit Shelter - Art in the Streets - MOCAtv Ep. 7
トーマス・ヒルシュホルン
出典:Art21
Thomas Hirschhorn: "Gramsci Monument" | Art21 "Extended Play"
トーマス・ヒルシュホルンは、「特定のコミュニティに住み込み、住民と一緒にモニュメントをつくる」プロジェクトを展開してきました。《Gramsci Monument》(2013)は、ニューヨーク・ブロンクスの公営住宅地Forest Housesで行われたプロジェクトです。ヒルシュホルンは住民と協働して、仮設のパビリオン群を建設し、その中にカフェ、図書室、ラジオ局、展示スペース、子ども向けの遊び場や講座などを設けました。会期中は、住民が新聞を編集したり、ラジオ番組を配信したり、哲学者のレクチャーに参加したりと、日々さまざまな活動が生まれていきます。
川俣正

出典:TOKYO ART BEAT
川俣正「東京インプログレス」
着地のための思考──幻影のタワーからゆらぐ大地へ
川俣正は、木材や廃材を使った仮設構造物を、学生や地域住民と協働してつくるプロジェクトで知られています。《Tokyo in Progress》(2010–2011)では、東京・隅田川沿いの汐入公園に、近隣の小学生や住民とのワークショップを通じて木製の展望塔を建てました。建設中だった東京スカイツリーと向かい合う位置に立つこの塔は、「巨大開発のシンボル」を眺めるための、住民自身の手で作られた見晴らし台です。一時的な木造構造物を通じて、人々が自分たちの街の風景やスケール感を身体で捉え直し、「都市をどのように使い、記憶していくのか」を考える場になっています。
タニア・ブルゲラ

出典:TATE
Tania Bruguera: Immigrant Movement International
タニア・ブルゲラは、「arte útil(有用なアート)」という概念を掲げ、「役に立つことを目的としたアート」を実践してきました。《Immigrant Movement International》では、クイーンズのコロナ地区——移民が多く暮らす多国籍・トランスナショナルな街——に拠点を構え、アートを使った英語クラス、法律相談、政治教育、アートとアクティビズムのワークショップなどを行うコミュニティセンターを運営しました。一見すると芸術作品というより支援センターに見えますが、ブルゲラはこれを「移民たちが自らの権利を学び、政治に参加するためのアートプロジェクト」と位置づけ、「アートは有用たりうるか」という問いそのものを作品の中心に据えています。
リック・ロウ
出典:PBS NewsHour Extra Classroom Video Collection
Project Row Houses - Rick Lowe's advice for young people
シアスター・ゲイツ
出典:Rebuild Foundation
Rebuild Foundation's 2021 Impact
ソーシャルプラクティスの特徴は、「場・時間・関係性」を社会に組み込み、社会をデザインするものになっている点です。ソーシャルプラクティス/コミュニティアートでは、展覧会が終わった後も続いていく学びや、地域の生活そのものの変化が作品の一部になります。ここで重要なのは、一過性のものではなく「どれだけ人々の行動や意識を変えたか」「どんな新しいつながりを生んだか」です。
