厳格な水平垂直の構図。
大理石のような肉体。
ジャック=ルイ・ダヴィッド(1748〜1825)は、フランス革命とナポレオン帝政の時代を絵画で体現した画家です。
同時に、新古典主義を確立した美術史上の巨匠でもあります。
目次
ダヴィッドの生涯
初期:ロココから古典へ
- 1748 年: パリに生まれる
- 1774 年: ローマ賞を受賞、5 年間イタリアに留学
- 古代ローマ彫刻とカラヴァッジョを吸収
- 当時主流のロココ様式を捨てる
新古典主義の確立
- 1784 年: 「ホラティウス兄弟の誓い」発表
- 古代ローマの英雄譚を、明晰な構図で描く
- 啓蒙思想の道徳的緊張を視覚化
フランス革命期
- 1789 年: 革命勃発、ジャコバン派に加担
- 国民公会議員として国王処刑に賛成票
- 革命政府の事実上の「美術監督」に
ナポレオン期から亡命
- 1804 年: ナポレオンの首席画家に任命
- 「ナポレオンの戴冠式」など壮大な歴史画
- 1815 年: 王政復古でブリュッセルに亡命
- 1825 年: 亡命先で死去
新古典主義とは
新古典主義は、18 世紀後半に興った美術運動です。
- 古代ギリシャ・ローマの美の規範に立ち返る
- ロココの軽薄さ・装飾性への反動
- 啓蒙思想・市民道徳と結びつく
- ポンペイ遺跡発掘(1748 年〜)が刺激に
ダヴィッドの様式的特徴
明晰な構図
- 水平・垂直の幾何学的骨格
- 主要人物を画面前面に並列配置
- 背景は簡素、主題に集中させる
彫刻的な肉体
- 古代彫刻のような筋肉と輪郭線
- 陰影を抑え、形態の明瞭さを優先
- 感情よりも意志・道徳を体現する身体
道徳的劇性
- 家族・国家・自由を主題化
- 主人公が決定的瞬間に身を投じる構図
- 絵画を「市民教化の道具」として用いる
代表作
ホラティウス兄弟の誓い(1784)
- ルーヴル美術館所蔵
- 古代ローマの三兄弟が父に剣を捧げる場面
- 男たちの直線、女たちの曲線が対比
- 新古典主義の宣言として歴史的意義を持つ
マラーの死(1793)
- ベルギー王立美術館(ブリュッセル)所蔵
- 暗殺された革命家ジャン=ポール・マラーを聖人画的に描く
- カラヴァッジョを思わせる単純な背景
- 「革命の ピエタ」として政治宣伝画の頂点
サビニの女たちの介入(1799)
- ルーヴル美術館所蔵
- 恐怖政治後の和解を寓意化
- 戦う男たちの間に飛び出す女と子供たち
ナポレオンの戴冠式(1805〜1807)
- ルーヴル美術館所蔵、巨大な壁画的歴史画
- ノートルダム大聖堂での戴冠式を描く
- ナポレオン自らが妻ジョセフィーヌに冠を授ける場面
- 200 名近い人物の群像構成
サン・ベルナール峠を越えるナポレオン(1801)
- マルメゾン城など複数バージョン
- 白馬にまたがる若き英雄の理想化
- 「ハンニバル」「カール大帝」の名を岩に刻む
弟子と影響
ダヴィッドの工房から、19 世紀フランス絵画の主要画家が育ちました。
- ジャン=オーギュスト=ドミニク・アングル:新古典主義の正統後継者
- アントワーヌ・ジャン・グロ:ロマン主義への橋渡し
- ジロデ=トリオゾン、ジェラール
新古典主義とロマン主義
ダヴィッドが確立した新古典主義は、19 世紀前半にロマン主義との対立軸を生みます。
- 新古典主義: 線・理性・古代の規範(ダヴィッド・アングル)
- ロマン主義: 色・情念・現代の悲劇(ジェリコー・ドラクロワ)
- 両者の論争が、19 世紀の絵画論を定義した
政治と美術
ダヴィッドの作品は、絵画を政治の言語にした最初期の例です。
- 革命政府への参加
- ナポレオン体制の宣伝美術
- 政権交代とともに様式が変化
- 「絵画は中立ではない」という近代的問題意識を先取り
主な所蔵先
- ルーヴル美術館(パリ)
- ヴェルサイユ宮殿
- ベルギー王立美術館(ブリュッセル)
- メトロポリタン美術館(ニューヨーク)
まとめ|ダヴィッドを読む視点
- 古代の規範を再生し、新古典主義を確立した
- フランス革命とナポレオンを絵筆で描いた歴史の証人
- 政治と美術が結びついた最初期の事例として読み返せる
新古典主義・ロマン主義の時代を学ぶ起点が、ダヴィッドです。

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