中国古代〜唐美術とは:BC3000〜AD907 の中華文明の造形史
中国古代〜唐美術(紀元前 3 千年紀〜 907 年)は、新石器時代の彩陶から、夏・殷・周の青銅器時代、春秋戦国・秦の統一、漢・三国・南北朝・隋・唐に至る、約 4 千年に及ぶ中華文明の視覚造形の歴史である。本サイトの中国古代〜唐カテゴリは、この長大な時代を、新石器、夏殷周、秦漢、六朝、隋唐の 5 段階で整理する。
中国古代美術の特徴は、(1)新石器時代以来の連続性、(2)青銅器・玉器・陶磁器・建築・絵画・書という多分野の並走、(3)仏教伝来(後漢〜南北朝)以降の宗教美術の爆発的展開、(4)唐代に世界帝国として周辺諸国(朝鮮・日本・東南アジア・西域)に強い影響を与えた、にある。日本美術における仏教伝来以降の様式の母体は、ほぼすべてこの時代の中国美術にある。
主要トピック:5 段階の発展
1. 新石器時代(BC 7000-1500)
仰韶文化(彩陶、BC 5000-3000、河南)、馬家窯文化(西部彩陶、BC 3300-2000)、龍山文化(黒陶、BC 3000-2000、山東)。彩陶は手作りの土器に対し、幾何学文・動物文を彩色した世界最古級の絵画的装飾を持つ。新石器晩期の良渚文化(玉器、BC 3300-2300、長江下流)は精巧な玉璧・玉琮を生み、中国玉器文化の起源となった。
2. 夏殷周(BC 2070-256)
夏(実在性は議論中)、殷(BC 1600-1046、青銅器文化の最盛期)、西周(BC 1046-770)、東周(春秋・戦国、BC 770-256)。青銅器は祭祀・王権の象徴で、饕餮文・夔龍文・蝉文という独特の文様体系を持つ。殷墟(河南省安陽、世界遺産)から大量の青銅器・甲骨文(漢字の起源)が出土した。
3. 秦漢(BC 221-AD 220)
始皇帝の秦統一(BC 221)と漢の繁栄(漢の四百年)。兵馬俑(始皇帝陵、西安、世界遺産)は等身大の陶兵 8000 体を含む、人類史上最大規模の陶塑像群。漢代の墓室壁画・帛画(長沙馬王堆・洛陽八里荘)、画像石(山東武氏祠)、銅鏡、漆器が代表的造形。
4. 六朝(220-589)
魏晋南北朝の分裂期。仏教が西域経由で本格的に伝来し、雲岡石窟(山西省大同、5 世紀後半)、龍門石窟(河南省洛陽、5 世紀末-)、敦煌莫高窟(甘粛省、4 世紀末-、世界遺産)の三大石窟が彫刻・壁画で展開された。書ではこの時期に王羲之(303-361?)が「蘭亭序」を書き、書道の祖として後世に絶対的影響を残した。
5. 隋唐(589-907)
隋(589-618)の再統一を経て、唐(618-907)が世界帝国として東アジア・中央アジアにまたがる文化圏を形成した。唐三彩(鉛釉低火度三彩陶器)、敦煌莫高窟の唐代壁画群、呉道子・閻立本の絵画、楷書の完成(顔真卿・柳公権)、長安・洛陽の都城建築(日本の平城京・平安京の母体)。日本との関係では、遣隋使・遣唐使を通じて、ほぼ全領域の文化が直接日本へ流入した。
代表造形と所蔵
| 名称 | 時代 | 特徴 | 所蔵 |
|---|---|---|---|
| 仰韶文化彩陶(人面魚紋盆) | 新石器 | 幾何学・動物紋の彩色土器 | 中国国家博物館 |
| 司母戊鼎 | 殷後期 | 世界最大の青銅祭器(832kg) | 中国国家博物館 |
| 兵馬俑 | 秦 | 等身大陶兵 約8000体 | 秦始皇帝陵博物院(西安) |
| 馬王堆漢墓帛画 | 前漢 | 絹に描かれた天界・地界・人界の宇宙図 | 湖南省博物館 |
| 雲岡石窟第20窟大仏 | 北魏 | 高さ 13.7m の坐仏 | 雲岡石窟(山西省大同) |
| 敦煌莫高窟壁画群 | 北魏-唐-元 | 4-14世紀の連続的壁画約735窟 | 敦煌(甘粛省) |
| 蘭亭序(神龍本) | 東晋 | 王羲之の書の最高傑作(複製) | 北京故宮博物院 |
| 唐三彩騎駱駝陶俑 | 唐 | 鉛釉低火度三彩 | 各所 |
| 歩輦図 | 唐 | 閻立本筆と伝 | 北京故宮博物院 |
| 送子天王図 | 唐 | 呉道子(伝) | 大阪市立美術館 |
技法・特徴
- 青銅器の鋳造:殷代に完成した「合範法」(外型と内型の組み合わせで複雑な形を鋳造)は、人類史上最高水準の青銅器鋳造技術を実現した。饕餮文の細密装飾はこれにより可能となった。
- 玉器の彫刻:硬度 6.5-7 の玉(軟玉、ヒスイ)を、研磨砂で長時間かけて削り出す手間のかかる技法。新石器時代の良渚文化以来、中国独自の素材として発展した。
- 壁画と絹画:墓室壁画(漢代以降)、敦煌などの石窟壁画、絹本に描く絹画(帛画)。岩絵具と動物膠を用いた東アジア絵画の技法的源流。
- 書道:篆書(殷周)、隷書(秦漢)、楷書・行書・草書(六朝〜唐)と書体が発達。王羲之「蘭亭序」は行書の最高傑作とされる。
- 陶磁器:原始青磁(殷周)、灰釉陶(漢)、鉛釉陶(唐三彩)、青磁(六朝〜唐)。技術の蓄積が宋代の磁器革命の前提を作った。
歴史的文脈:シルクロードと文化交流
中国古代〜唐美術は、ユーラシア大陸の広範な交流の中で形成された。漢代に張騫の西域派遣を経て、シルクロードが本格的に活性化、ペルシア・中央アジア・インドの文化が中国へ流入した。仏教は後漢の時代にシルクロード経由で中国に到来し、北魏期の雲岡・龍門・敦煌の石窟造営を可能にした。逆方向には、絹(シルク)、紙、陶磁器、製紙技術、火薬、羅針盤、印刷術が西方へ伝わった。唐代の長安は、当時世界最大の国際都市で、日本人・新羅人・ペルシア人・ソグド人が混住した。これらの活発な交流が、唐代美術の多様性と豊穣を支えた。
日本美術への影響
- 仏教美術の伝来:6 世紀百済を経由して仏像・寺院建築が日本へ伝わった。法隆寺は六朝〜隋の仏教建築様式の直接の継承例。釈迦三尊像(鞍作止利、623)は北魏様式の流れを汲む。
- 遣隋使・遣唐使:607 年遣隋使、630 年遣唐使に始まる、日本朝廷の公式文化使節。約 250 年継続し、唐代の都城・建築・書・絵画・楽舞・行政制度を日本へ流入させた。平城京・平安京は唐の長安・洛陽の縮小再現。
- 正倉院宝物:聖武天皇遺愛の品約 9,000 件で、ペルシア・唐・東南アジア・南アジアからシルクロードを経て奈良に届いた工芸品。世界唯一の 8 世紀のシルクロード文化の物的証拠群。奈良国立博物館正倉院展で毎年秋公開。
- 日本の文字と書道:王羲之の書は、空海・嵯峨天皇・橘逸勢ら平安期日本の書道(三筆・三跡)の絶対的範となった。
- 唐三彩と奈良三彩:唐三彩の影響で、日本でも 8 世紀に「奈良三彩」(緑・白・黄三色の鉛釉陶器)が制作された。
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続けて中国宋元を読むと、唐の世界帝国期から宋の文人画隆盛期への展開、雪舟が学んだ宋元水墨画の本流が立体的に分かる。
中国古代美術を観る主要美術館
中国古代美術を体系的に観るには、複数の世界的美術館・博物館を巡る必要がある。中国本土では中国国家博物館(北京、青銅器・玉器・彩陶)、北京故宮博物院(書画・陶磁・宮廷工芸)、上海博物館(青銅器・陶磁・書画コレクションの世界水準)、陝西歴史博物館(西安、唐三彩・墓室壁画)、秦始皇帝陵博物院(西安、兵馬俑)、敦煌研究院(莫高窟、要事前予約)。台北・故宮博物院は清朝皇室コレクションを継承する世界最大級の中国美術機関で、翠玉白菜・肉形石・北宋范寛「谿山行旅図」・南宋郭熙「早春図」を所蔵。海外では大英博物館(中国部)、メトロポリタン美術館(中国部)、フリーア美術館(ワシントン)、ボストン美術館(中国・日本部)、東京国立博物館東洋館。これらを巡れば、中国古代美術の代表作のかなりの部分を実物で確認できる。
