「その他地域美術」とは:西洋・東アジアの外側に広がる造形史
本サイトのその他地域カテゴリは、西洋美術と東アジア美術に含まれない地域の造形文化を扱う中間ハブである。便宜上の総称ではあるが、ここに集まる六つの領域は、いずれも西洋美術史中心の通史で長く周辺化されてきた一方で、20 世紀以降に世界美術史の核として再発見された造形伝統を共有している。
具体的には、(1)古代エジプト・近東(メソポタミア・ペルシア)、(2)イスラム美術、(3)インド・東南アジア、(4)アフリカ美術、(5)オセアニア、(6)南北アメリカ(先住民・植民地期)の六つの leaf カテゴリに分かれる。
主要トピック:六つの領域
1. 古代エジプト・近東
ナイル流域の 3000 年王朝美術と、シュメール・アッカド・バビロニア・アッシリア・アケメネス朝ペルシアまでの近東美術を含む。ピラミッド・ジッグラト・神殿・浮彫・ハンムラビ法典碑といった王権と葬礼を物質化する造形が中核。古代ギリシャのアルカイック彫刻はエジプト直立像から派生した。
2. イスラム美術
7 世紀のイスラム成立後、北アフリカから東南アジアまで広がった偶像なき装飾体系。アラベスク・幾何学・カリグラフィー・ムカルナス・モスク建築・ペルシア細密画・ムガル絵画・イズニク陶器・ペルシア絨毯が世界的に知られる。コルドバのメスキータ、グラナダのアルハンブラ、イスタンブールのセリミエ・モスク、イスファハーンのイマーム・モスク、アグラのタージ・マハルが象徴的建築。
3. インド・東南アジア
インダス文明から、ガンダーラ・マトゥラーの初期仏像、グプタ古典、ヒンドゥー寺院、チョーラ朝シヴァ・ナタラージャ、ムガル絵画、ボロブドゥール、アンコール・ワット、バガンまで。仏教・ヒンドゥー教・イスラムの三層構造と、東南アジアでの土着信仰との融合が特徴。
4. アフリカ美術
サハラ岩絵、ノク・テラコッタ、イフェ・ベニンの宮廷ブロンズ、ヨルバ・ダン・コンゴ・ドゴンの仮面と像、エチオピア正教絵画、20 世紀のプリミティヴィスム受容(ピカソ・マティス・ブランクーシ)、現代アフリカ美術(エル・アナツイ、ウィリアム・ケントリッジ)まで広範。
5. オセアニア
メラネシア(パプアニューギニア・ソロモン諸島)、ポリネシア(マオリ・タヒチ・ハワイ・イースター島)、ミクロネシア、オーストラリア・アボリジナルの諸領域。木彫・タパ布・モアイ・ドット・ペインティング・ボディ・アートが核。ゴーガンのタヒチ滞在以降、欧米モダニズムが繰り返し参照した。
6. 南北アメリカ先住民・植民地期
北米先住民(プエブロ・北西海岸トーテム・スー)、メソアメリカ(オルメカ・マヤ・アステカ)、アンデス(チャビン・モチェ・ナスカ・インカ)、植民地期スペイン領クスコ派絵画、ハイチ・カリブの宗教美術。スペイン・ポルトガルの征服による宗教図像のクレオール化が独特の混交様式を生んだ。
代表作・代表事例(領域横断ハイライト)
| 領域 | 代表的な作品・遺跡 | 所蔵・所在 |
|---|---|---|
| 古代エジプト | ツタンカーメン王副葬品 | カイロ・エジプト博物館 / 大エジプト博物館 |
| 近東 | ハンムラビ法典碑 | ルーヴル美術館 |
| イスラム | アルハンブラ宮殿(世界遺産) | グラナダ |
| イスラム | タージ・マハル(世界遺産) | アグラ |
| インド | シヴァ・ナタラージャ(チョーラ朝ブロンズ) | 各所 |
| 東南アジア | アンコール・ワット(世界遺産) | カンボジア・シエムレアプ |
| 東南アジア | ボロブドゥール(世界遺産) | インドネシア・ジャワ島 |
| アフリカ | ベニン・ブロンズ(13–19 世紀宮廷工芸) | 大英博物館・ベルリン民族学博物館 他 |
| アフリカ | ノク・テラコッタ頭像 | ナイジェリア国立博物館 他 |
| オセアニア | イースター島モアイ(ラパ・ヌイ) | イースター島(一部大英博物館) |
| オセアニア | アボリジナル・ドットペインティング | 各所 |
| メソアメリカ | マヤ・パレンケ遺跡 | メキシコ・パレンケ |
| メソアメリカ | アステカ太陽石(カレンダー石) | メキシコ国立人類学博物館 |
| アンデス | マチュピチュ遺跡(インカ・世界遺産) | ペルー・クスコ |
| 北米先住民 | 北西海岸トーテムポール | 各所 |
横断的な特徴:六領域に共通する三つの観点
- 儀礼・宗教との一体性:六領域はいずれも、絵画・彫刻・建築が独立した「美術」ではなく、儀礼・葬礼・宗教実践と一体化した造形である点で共通する。「アート」として鑑賞される姿は、本来の機能から切り離された二次的状態。
- 素材の多様性:石材・金属・木・テラコッタ・布・骨・羽根・人体(ボディアート)・砂(砂絵)など、西洋美術の絵具・カンバスを超えた素材選択が普通。
- 植民地主義との交錯:六領域の多くは 16–20 世紀の植民地主義によって、(1)大量の作品が宗主国の博物館に流出し、(2)「プリミティヴ」と分類されて低位置付けされ、(3)20 世紀末以降に返還運動と再評価が同時進行している。修復・返還タグを参照。
影響と相互関係:六領域が世界美術史に与えた波及
これらの領域が西洋・東アジア美術に与えた影響は、(1)古代エジプト→ギリシャ・アルカイックの彫刻形式、(2)近東→イスラム→ヨーロッパ中世の装飾文様、(3)インド→中央アジア→中国→朝鮮→日本の仏教図像と仏像様式、(4)アフリカ・オセアニア→20 世紀ヨーロッパ前衛の形式革命(キュビスム・フォーヴィスム・表現主義)、(5)メソアメリカ→近代メキシコ壁画運動(リベラ・オロスコ・シケイロス)、(6)イスラム細密画→タージ・マハル→ヨーロッパ・オリエンタリズム絵画と、世界美術史の主要な変革のほぼすべてに関与している。
近年は「Global Art History(グローバル美術史)」という学問的潮流の中で、これらの領域を西洋中心通史の付録ではなく、対等のプレイヤーとして扱い直す動きが進む。メトロポリタン美術館・ルーヴル美術館・大英博物館の常設展示構成も、近年大きく変更されている。
学び方ガイド:六領域をどう順に巡るか
初学者にお勧めの巡り方は、(1)古代エジプトから始めてピラミッド・ツタンカーメン副葬品で「葬礼の物質化」を体感し、(2)近東のハンムラビ法典碑とアッシリア浮彫で王権の視覚化を、(3)イスラムのアルハンブラ宮殿で偶像なき装飾の極致を、(4)インド・東南アジアのチョーラ朝ブロンズとアンコール・ワットで宗教宇宙の物質化を、(5)アフリカのベニン・ブロンズとピカソが受容した仮面で 20 世紀美術への橋渡しを、(6)オセアニアと先住アメリカのモアイ・トーテム・マヤ遺跡で「もう一つの古代」を体感する、という順がバランスが良い。
各領域の詳細は、それぞれの leaf カテゴリ hub を参照のこと(本ページ末尾の関連リンク参照)。
よくある質問
Q. なぜ「その他地域」という総称を使うのか
本サイトは便宜上、(1)西洋、(2)日本、(3)東アジア、(4)その他地域の四つの中間ハブを設けている。「その他」は二次的という意味ではなく、上記三領域の枠に収まらない六つの広大な造形伝統を整理する技術的カテゴリである。各 leaf カテゴリは独立して同等の重みを持つ。
Q. なぜ古代エジプトを「西洋」に含めないのか
古代エジプトは地理的にはアフリカ大陸北東部、文化的には地中海世界の一部だが、ファラオ朝美術は西洋美術のギリシャ・ローマ系統とは別系譜である。19 世紀ヨーロッパが古代エジプトを「西洋古典の前史」に組み込んだのは、ナポレオン遠征以降の文化政治の産物に過ぎない。本サイトでは古代エジプト独自の系譜を尊重して「その他地域」に置く。
Q. オセアニアと先住アメリカは古代美術なのか現代美術なのか
両方の側面がある。アボリジナル・ドット・ペインティングは数万年の岩絵伝統を持ちつつ、1970 年代以降に画材を獲得した現代美術運動でもある。同様に北米先住民のトーテム彫刻、マヤの末裔である現代マヤ作家の活動など、「古代」と「現代」が連続している。両カテゴリは通史と現代を含めて扱う。
関連カテゴリ・関連リンク
- その他地域カテゴリ TOP(本ページ)
- 古代エジプト・近東カテゴリ TOP
- イスラム美術カテゴリ TOP
- インド・東南アジアカテゴリ TOP
- アフリカ美術カテゴリ TOP
- オセアニアカテゴリ TOP
- 南北アメリカ先住民・植民地期カテゴリ TOP
- 西洋美術カテゴリ TOP(並行領域)
- 東アジア美術カテゴリ TOP(並行領域)
- ルーヴル美術館タグ TOP
- 大英博物館タグ TOP
- メトロポリタン美術館タグ TOP
続けて、各領域の詳細を読むなら、まず関心のある leaf カテゴリ hub に進むのが早い。世界美術史を一望したい場合は、本ハブから古代エジプト→近東→イスラム→インド→東南アジア→アフリカ→オセアニア→先住アメリカの順で巡ると、西洋・東アジア中心の通史では見えなかった世界造形史の輪郭が立ち上がる。
