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東アジア美術中国・近現代

中国近現代美術とは:伝統解体と国際接続の 150 年

中国近現代美術は、清末(19 世紀後半)から現在までの約 150 年間を扱う。明清に確立した文人画と職業画の伝統が、(1)アヘン戦争以後の西洋接触と上海開港、(2)辛亥革命と中華民国期の西洋画教育、(3)日中戦争と抗日プロパガンダ、(4)中華人民共和国の社会主義リアリズム、(5)文化大革命と毛沢東芸術論、(6)改革開放後の前衛運動と国際美術市場参入、という六つの段階を通じて、徹底的に解体・再編された 150 年である。

本サイトの中国近現代カテゴリは、海上派、嶺南派、徐悲鴻と林風眠の西洋画導入、斉白石と黄賓虹の伝統再生、社会主義リアリズム、星星画会(1979)、85 美術新潮、政治ポップ(王広義)、シニカル・リアリズム(方力鈞・岳敏君)、艾未未、蔡国強、徐冰、張暁剛らの現代美術までを横断的に扱う。

主要トピック:6 つの段階

1. 海上派と嶺南派(19 世紀後半〜20 世紀初頭)

1843 年上海開港後、商業都市上海に画家が集まり海上派(任伯年・呉昌碩・蒲華)が形成された。文人画の素養を保ちつつ、市場志向の鮮やかな色彩・装飾性・大胆な構図を導入した。広州を中心とする嶺南派(高剣父・高奇峰・陳樹人)は、日本画(特に竹内栖鳳・横山大観)と西洋画法を取り入れた折衷様式を展開した。

2. 徐悲鴻・林風眠と西洋画導入(民国期)

1920 年代以降、フランス・日本留学帰国組が中国に西洋画教育を移植した。徐悲鴻(1895–1953、パリ留学・北京大学・国立北平芸術専科学校校長)は油彩と中国画の融合を主張し、馬の水墨画と歴史画「田横五百士」「愚公移山」で知られる。林風眠(1900–1991、パリ・ベルリン留学・国立芸術院校長)はキュビスムと中国画の融合で抒情的様式を確立した。

3. 斉白石と伝統絵画の革新

湖南省の農民出身、独学で大成した斉白石(1864–1957)は、海老・蝦・蟹・雛鶏・葡萄・牡丹を、伝統技法と素朴な観察を融合した独自筆致で描き、中国近代水墨の頂点に立つ。1953 年世界平和評議会から国際平和賞、1956 年中華全国文学芸術界連合会名誉主席。黄賓虹(1865–1955)は晩年に到達した「黒・密・厚・重」の山水で、宋元水墨の現代的継承者と評される。

4. 社会主義リアリズムと文化大革命

1949 年中華人民共和国成立後、ソ連社会主義リアリズムが移植され、油彩と国画(中国画)の双方が「人民のための芸術」として再編された。1942 年延安文芸座談会の毛沢東講話が芸術論の規範となり、董希文「開国大典」(1953)、羅工柳「地道戦」、鍾涵「延河邊上」などが代表作。1966–1976 年の文化大革命期は、伝統絵画も西洋画も「封資修」(封建・資本・修正主義)と批判され、革命様板戯と毛沢東肖像・革命浪漫主義絵画のみが許容された。多くの作家が迫害を受け、文物が破壊された。

5. 改革開放と前衛美術(1979〜90 年代前半)

1979 年「星星画会」(黄鋭・馬徳升・王克平・艾未未)が中国美術館前で野外展を開催(当局によって撤去)、続いて 1985 年から全国規模で起こった85 美術新潮運動が西洋現代美術の各潮流を一斉に試みた。1989 年「中国現代芸術展」(中国美術館)が前衛運動の総決算となったが、同年の天安門事件で運動は急速に収束した。

6. 1990 年代以降の国際接続と現代アート市場

1990 年代以降、中国現代美術は急速に国際市場に進出した。政治ポップ(王広義「大批判」シリーズ)、シニカル・リアリズム(方力鈞・岳敏君の禿頭笑顔シリーズ・張暁剛「血縁・大家族」)、蔡国強の火薬絵画と花火パフォーマンス、徐冰「天書」(架空の漢字インスタレーション)、艾未未(北京オリンピック「鳥の巣」共同設計者・人権活動家)が世界的注目を集める。2000 年代以降、北京 798 芸術区、上海西岸・PSA、UCCA、M+(香港)など現代美術機関が拡張し、サザビーズ・クリスティーズの香港セールで中国現代美術の落札価格が連続記録更新。

代表作・代表事例

時代・潮流作家・作品所蔵
海上派任伯年「群仙祝寿図」上海中国画院 他
海上派呉昌碩「桃図」各所
嶺南派高剣父「東戦場の烈焔」各所
民国期油彩徐悲鴻「田横五百士」徐悲鴻記念館(北京)
民国期油彩徐悲鴻「愚公移山図」徐悲鴻記念館(北京)
民国期林風眠「捧花仕女」「秋鶩」各所
水墨斉白石「蝦」連作各所
水墨黄賓虹晩年山水浙江省博物館 他
社会主義リアリズム董希文「開国大典」中国国家博物館(北京)
文革期劉春華「毛主席去安源」中国国家博物館(北京)
政治ポップ王広義「大批判:コカ・コーラ」各所
シニカル・リアリズム張暁剛「血縁・大家族」シリーズ各所
シニカル・リアリズム岳敏君「処刑」各所
現代インスタレーション徐冰「天書」各所
現代蔡国強「不適時項目」(火薬絵画)各所
現代艾未未「童話(カッセル・ドクメンタ 12)」各所

技法・特徴

  • 海上派の市場志向:呉昌碩は篆刻・書・画の三絶を融合し、上海商工業者の好みに応える鮮やかな色彩と装飾性を展開した。
  • 徐悲鴻の融合論:油彩で歴史画を、水墨で動物画(馬・牛)を描き、両者を共存させる二元戦略。中国画には写実主義を、油彩には中国画の構図感覚を持ち込んだ。
  • 社会主義リアリズムの大画面歴史画:ソ連リアリズムを範とした、革命指導者と人民を主題とする大画面油彩。光線処理と人物配置に厳密な構図規範。
  • 政治ポップ:文化大革命の宣伝図像と、欧米消費財ロゴ(コカ・コーラ・マクドナルド)を併置することで、社会主義と消費資本主義の同時受容をパロディ化する。
  • シニカル・リアリズムの空虚な笑顔:方力鈞・岳敏君が量産した「禿頭の笑顔」は、天安門事件後の精神的虚無を表象する世代記号として国際美術市場で流通した。
  • 蔡国強の火薬:火薬を画面に配置して爆発させ、その痕跡を絵画として定着する技法。中国の発明である火薬を東西の文明史的差異の象徴として用いる。
  • 徐冰の偽漢字:「天書」では実在しない自作漢字 4000 字を木版で印刷し、巨大な掛軸状インスタレーションとした。文字の権威性そのものを問う。

影響と後世への継承

中国近現代美術は、(1)1990 年代後半以降のグローバル現代美術市場の主要プレイヤーとなり、香港クリスティーズ・サザビーズの落札価格上位を中国作家が長期占拠した。(2)周辺領域への影響として、台湾・香港・シンガポールの華人現代作家、欧米在住の華人ディアスポラ作家(蔡国強・徐冰)の活動につながる。(3)日本でも 2000 年代以降、森美術館・東京都現代美術館で中国現代美術展が頻繁に開催されている。

主要コレクションは中国国家博物館(北京)・中国美術館(北京)・上海博物館・上海当代芸術博物館(PSA)・UCCA Center for Contemporary Art(北京)・M+(香港)・テート・モダンポンピドゥー・センター森美術館に分散している。

学び方ガイド:はじめて中国近現代美術を学ぶ人へ

中国近現代は政治史と密接に絡むため、美術史単独で読むと脈絡が見えにくい。お勧めは(1)斉白石の蝦から始めて、伝統水墨が近代でも生きていたことを確認する。次に(2)徐悲鴻「愚公移山図」で西洋画導入の最も成功した例を、(3)董希文「開国大典」で社会主義リアリズムの典型を、(4)方力鈞・張暁剛で改革開放後の世代感覚を、(5)蔡国強の火薬と徐冰の偽漢字で国際舞台での中国性の問い直しを体験する。これで 150 年の振幅が掴める。

よくある質問

Q. 文化大革命期の美術はどう評価されているか

1966–1976 年の文革期は、ほとんどの伝統絵画と西洋画が制作停止に追い込まれ、革命様板戯・毛沢東肖像・農工兵を主題とする革命浪漫主義絵画のみが許容された。多くの伝統作家が迫害を受け、紅衛兵による文物破壊で甚大な文化財損失が生じた。1980 年代以降、文革期美術はプロパガンダの典型例として批判される一方、近年は政治史資料・グラフィック史料として再検討も進む。

Q. 85 美術新潮とは何か

1985 年から 1989 年にかけて中国全土に広がった、若手作家による西洋現代美術の集団的導入運動。表現主義・ダダコンセプチュアル・パフォーマンス・インスタレーションが一斉に試みられた。批評家・栗憲庭らが理論化し、1989 年中国美術館「中国現代芸術展」が頂点。同年の天安門事件で運動は強制的に終了したが、1990 年代以降の中国現代美術の出発点を成した。

Q. なぜ中国現代美術は 2000 年代以降に高騰したのか

2003 年のサザビーズ・ニューヨーク「アジア現代美術」セール、2005 年からの香港セール拡大、北京 798 芸術区の国際ギャラリー集積、欧米コレクター(ウリ・シグ等)の系統的蒐集、中国国内の新富裕層形成、政府の文化政策的後押し、という複合要因による。2008 年北京オリンピック前後にバブル的高騰を迎えた。2012 年以降は調整局面を経つつ、トップ作家は安定的高水準を維持している。

Q. 艾未未は美術家か活動家か

両方である。1979 年星星画会創立メンバー、1981–1993 年ニューヨーク滞在、帰国後は陶磁・写真・建築(北京オリンピック「鳥の巣」共同設計)・インスタレーション(テート・モダン「ひまわりの種」2010)と多領域で制作。同時に四川大地震(2008)の犠牲児童名簿公表、2011 年拘束、2015 年以降ベルリン・ケンブリッジ・ポルトガル拠点での制作と、人権活動家としての発言を続ける。両側面が一体不可分。

鑑賞のチェックポイント

  • 制作年:1911 年(辛亥革命)・1949 年(建国)・1966 年(文革開始)・1976 年(文革終了)・1989 年(天安門事件)が転換点。
  • 素材:水墨・絹本/紙本か、油彩か、現代美術のミクストメディア・インスタレーションか。
  • 主題:文人画的山水・花鳥か、革命指導者・労働者か、消費社会パロディか、伝統文化の批判的再検討か。
  • 制作の場:北京・上海・広州(伝統的拠点)か、欧米滞在期の制作か、国際ビエンナーレ向けか。

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