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朝鮮半島– category –

東アジア美術朝鮮半島

朝鮮半島美術とは:仏教美術・青磁白磁・絵画の独自展開

朝鮮半島美術は、紀元前後の楽浪文化から、三国時代(高句麗・百済・新羅、4–7 世紀)、統一新羅(7–10 世紀)、高麗(918–1392)、朝鮮王朝=李朝(1392–1897)、大韓帝国・植民地期・現代までの約 2000 年間を扱う。中国大陸からの影響を受けつつも、(1)高麗青磁の翡色釉、(2)李朝白磁の余白美、(3)朝鮮絵画の独自図様という朝鮮独自の到達点を持つ。

本サイトの朝鮮半島カテゴリは、高句麗古墳壁画、百済仏教美術と日本飛鳥美術への影響、統一新羅の石窟庵・仏国寺、高麗青磁の象嵌技法、李朝の白磁・粉青沙器・民画、宮廷絵画と申潤福金弘道の風俗画までを横断的に扱う。

主要トピック:5 つの軸

1. 三国時代と統一新羅の仏教美術

4 世紀の仏教伝来後、高句麗・百済・新羅で独自の仏教美術が展開した。高句麗の古墳壁画(江西大墓・舞踊塚・四神図)、百済の金銅大香炉(扶余出土・国宝、6 世紀末)と日本飛鳥仏教美術への影響(法隆寺金堂壁画は百済工人の作とも伝わる)、新羅の慶州古墳金冠、統一新羅の石窟庵本尊(仏国寺、8 世紀後半・世界遺産)が頂点を成す。

2. 高麗青磁:翡色釉と象嵌技法

高麗時代(918–1392)には宋官窯青磁を範としつつ、独自の翡色(ひしょく)青磁を完成させた。9 世紀末から始まり 12 世紀初頭に頂点を迎え、徐兢『宣和奉使高麗図経』(1124)が「翡色」と称賛した。さらに 12 世紀中葉に独自の象嵌青磁(陰刻部に白土・黒土を埋め込み透明釉を掛ける)が開発された。康津窯址・扶安窯址が代表的窯場。

3. 李朝陶磁:粉青沙器と白磁

李朝(1392–1897)初期には粉青沙器(青磁素地に白化粧土を施す技法群、印花・剥地・鉄絵・彫花)が花開き、15 世紀後半以降は白磁が宮廷御用として中心化した。李朝白磁は中国磁器のような華麗さを排し、温かい乳白色と非対称の壺形(満月壺)に独自美を見出した。柳宗悦が民藝運動で再評価し、日本での朝鮮陶磁収集の発端となった。大阪市立東洋陶磁美術館の安宅コレクションは世界最高水準。

4. 李朝絵画:宮廷画員と風俗画

李朝絵画は宮廷画院(図画署)所属の画員と士大夫(両班)の文人画家に分かれる。安堅(15 世紀)「夢遊桃源図」(天理大学附属図書館・国宝)、申潤福(蕙園)の都市風俗・遊女画、金弘道(檀園)の庶民風俗画、鄭敾(謙斎)の真景山水(朝鮮の実景を描く)が李朝絵画の到達点。後期には民間絵師による民画(虎・鵲・文房具・花鳥)が花開いた。

5. 近現代:植民地期と韓国現代美術

1910 年韓国併合から 1945 年解放までの植民地期、京城に朝鮮美術展覧会(1922)が開設され、日本帝展のシステムが移植された。1945 年解放後は分断と朝鮮戦争を経て、1970 年代以降に単色画(タンセクファ、Dansaekhwa)が国際的に再評価され、Lee Ufan(もの派)、朴栖甫、鄭相和、河鍾賢らが世界的注目を集めた。

代表作・代表事例

時代作品所蔵
高句麗江西大墓「四神図」壁画北朝鮮・南浦
百済百済金銅大香炉国立扶余博物館
百済金銅弥勒菩薩半跏思惟像(広隆寺像と類例)国立中央博物館(ソウル)
統一新羅石窟庵本尊釈迦如来坐像(世界遺産)慶州・吐含山
統一新羅仏国寺多宝塔・釈迦塔(世界遺産)慶州・仏国寺
高麗青磁象嵌雲鶴文瓶国立中央博物館 / 大阪市立東洋陶磁美術館
高麗青磁瓢形水注各所
李朝初期安堅「夢遊桃源図」(国宝)天理大学附属天理図書館
李朝白磁壺「満月壺」大阪市立東洋陶磁美術館 他
李朝粉青沙器鉄絵唐草文瓶各所
李朝申潤福「美人図」「双剣対舞」韓国・澗松美術館
李朝金弘道「檀園風俗図帖」韓国・国立中央博物館
李朝鄭敾「金剛全図」韓国・三星リウム美術館
現代李禹煥「点より」「線より」シリーズ各所

技法・特徴

  • 翡色青磁:高麗青磁の独特の青緑色は、釉に含まれる微量鉄分と還元焔焼成によって発色。中国宋汝窯の天青色とは異なる、温かみのある翡翠色。
  • 象嵌技法:素地に文様を陰刻し、白土・黒土を埋め、削り出してから青磁釉を掛ける。雲鶴・蒲柳水禽・牡丹唐草が定番文様。
  • 粉青沙器の白化粧:青磁素地に白化粧土を施した上に、印花・剥地・鉄絵・彫花の各技法で文様を出す。素朴で力強い造形性。
  • 白磁の余白美:李朝白磁の満月壺は、左右非対称の歪み・ゆるい曲線・厚い乳白色釉が織りなす「不完全の美」を体現する。
  • 真景山水:鄭敾が中国古典山水の引用ではなく、朝鮮実景(金剛山・漢陽周辺)を直接写生する画法を確立した。
  • 民画の図様:虎と鵲、書冊文(チェクコリ)、花鳥、文字図など、民衆の願いを直截に表現する装飾絵画。

影響と後世への継承

朝鮮半島美術は、(1)日本飛鳥・奈良美術の仏教図像と造像技術の供給源となり、(2)桃山から江戸にかけて茶の湯において高麗茶碗(井戸・三島・粉引)が極めて高く評価され、(3)大正以降、柳宗悦の朝鮮民族美術館(1924)と濱田庄司河井寛次郎らの民藝運動が李朝白磁を世界的に再評価した。

主要コレクションは国立中央博物館(ソウル)・三星リウム美術館・澗松美術館・大阪市立東洋陶磁美術館(安宅コレクション)・東京国立博物館大英博物館・メトロポリタン美術館・国立故宮博物院(台北)に分散している。

学び方ガイド:はじめて朝鮮半島美術を学ぶ人へ

朝鮮半島美術は中国・日本との関係性で語られがちだが、独自の到達点をいきなり体感するのが近道。最初は(1)李朝白磁の満月壺を実見すること(大阪市立東洋陶磁美術館・東京国立博物館東洋館)。次に(2)高麗青磁象嵌雲鶴文で陶磁の頂点を、(3)石窟庵本尊で仏教彫刻の到達点を、(4)申潤福・金弘道の風俗画で李朝後期の生活感を体験する。最後に(5)李禹煥と単色画で現代へ繋ぐと、2000 年の流れが立体的になる。

よくある質問

Q. 高麗青磁と中国宋官窯青磁はどう違うのか

釉色は宋汝窯が「天青色」(薄い青)、高麗青磁は「翡色」(青緑)と質感が異なる。形態は宋官窯が古銅器を範とした端正な瓶・盤が多いのに対し、高麗は瓢形・瓜形・象形(鳥獣の形)など多彩な形態を生む。装飾では象嵌技法が高麗独自の発明で、中国にはない。

Q. なぜ李朝白磁は左右非対称なのか

意図的な「美的非対称」というよりも、大型壺をろくろで二分割成形して接合する技法上の制約から自然発生した歪みである。それを欠点ではなく「ゆらぎの美」として受け入れる美意識が李朝の独自性であり、後に柳宗悦が「無心の美」と理論化した。

Q. 高麗茶碗はなぜ茶の湯で珍重されたのか

桃山期、千利休らは中国天目茶碗の華麗さよりも、朝鮮半島で日用雑器として焼かれた井戸茶碗・三島・粉引の素朴で力強い造形に「侘び」の理想を見出した。桃山茶の湯から江戸大名の蒐集まで、高麗茶碗は最高位の茶器として扱われた。

Q. 単色画(Dansaekhwa)とは何か

1970 年代に韓国で展開した、画面全体を単一系の色(白・モノクロ・青)で覆い、絵具の層・引っ掻き・押し付けの行為性を強調する絵画運動。朴栖甫・鄭相和・河鍾賢らが代表。2010 年代以降、欧米・香港の美術市場で再評価が爆発し、価格が急騰した。

鑑賞のチェックポイント

  • 陶磁の発色:高麗青磁の翡色か、李朝白磁の乳白色か、粉青の白化粧か。
  • 象嵌技法の有無:陰刻に白黒土が埋まっているか。
  • 形態の対称性:李朝壺は意図的非対称、高麗瓶は端正、粉青は力強い変形。
  • 絵画の主題:宮廷画員の山水か、両班文人画か、申潤福・金弘道の風俗画か、民画か。

関連記事・関連カテゴリへの導線

続けて、朝鮮半島美術と日本の関係を読むなら桃山の高麗茶碗、大正・昭和の柳宗悦民藝運動を辿るのが王道。源流側を補強するなら中国宋元の青磁・水墨と比較すると、朝鮮独自の翡色・象嵌・余白美の輪郭が見えてくる。

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