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アフリカ美術(通史・現代含む)– category –

その他地域アフリカ美術(通史・現代含む)

アフリカ美術とは:宮廷工芸・儀礼造形・現代美術の射程

アフリカ美術は、北アフリカの古代エジプトを除いたサブサハラ・アフリカの造形文化を指し、紀元前数千年のサハラ岩絵から、ノク文化(ナイジェリア)、ベニン王国の宮廷美術、ヨルバ・コンゴ・バンバラ・ドゴンの儀礼造形、エチオピア正教絵画、20 世紀以降の現代アフリカ美術までを含む広大な範囲を扱う。20 世紀初頭にピカソ・マティス・ブランクーシ・モディリアーニらが受容した「アフリカン・アート」は、西洋モダニズムの形式革命の重要な触媒となった。

本サイトのアフリカ美術カテゴリは、サハラ・タッシリ岩絵、ノク・テラコッタ、イフェ・ベニンのブロンズと象牙工芸、ヨルバ・コンゴ・バンバラの仮面と神像、エチオピア正教図像、20 世紀ヨーロッパ前衛のアフリカ受容(プリミティヴィスム)、20–21 世紀現代アフリカ作家(エル・アナツイ、ウィリアム・ケントリッジ、Yinka Shonibare、Wangechi Mutu)までを横断的に扱う。

主要トピック:5 つの軸

1. 先史アフリカと岩絵芸術

サハラ砂漠中央部のタッシリ・ナジェール(アルジェリア・世界遺産)、ジェーバ・タドラルト(リビア・アルジェリア国境)には、紀元前 1 万年〜紀元前 1500 年頃にかけて描かれた多数の岩絵がある。野生動物・狩猟・牧畜・人物が時代層を成して重なり、サハラが緑地から砂漠へ変化した気候史をも記録する。南アフリカのサン人岩絵(ドラケンスバーグ山地)も同様に重要。

2. ノク・イフェ・ベニンの宮廷工芸

ナイジェリア中部のノク文化(前 5 世紀〜後 2 世紀)はテラコッタ人物像で知られる、サブサハラで最古級の彫塑文化。中世のイフェ王国(13–14 世紀)はリアリスティックなブロンズ・テラコッタ頭像で名高く、後のベニン王国(13–19 世紀)はオバ(王)の宮殿を「ベニン・ブロンズ」(金属レリーフ)と象牙彫刻で飾った。1897 年イギリス遠征隊が略奪し、欧米諸博物館に流出した約 5000 点が現在「返還問題」の中心。

3. ヨルバ・コンゴ・ドゴン・バンバラの儀礼造形

サブサハラ各地で、宗教儀礼・通過儀礼・葬礼に用いる仮面と像が高度に発達した。ヨルバ(ナイジェリア)のオリ・オコ祭具、ダン(リベリア・コートジボワール)の仮面、コンゴ(中央アフリカ)のヌキシ呪物像、ドゴン(マリ)の親族像、バンバラ(マリ)のチワラ羚羊冠、グレボ(リベリア)の幾何学仮面など、形式の多様性は驚くほど豊か。

4. ヨーロッパ前衛のアフリカ受容

1905–1907 年頃、パリではピカソマティスブランクーシ・モディリアーニらが、トロカデロ民族博物館(現・ケ・ブランリ博物館)でアフリカ仮面・神像に出会い、その形式の単純化と力強さを西洋アカデミーへの対案として吸収した。ピカソ「アヴィニョンの娘たち」(1907)右側の二人物の顔はダンとグレボの仮面の影響で、これがキュビスムの出発点となった。20 世紀美術における「プリミティヴィスム」は、植民地主義的なまなざしの問題と表裏一体であり、近年は批判的に検討されている。

5. 20–21 世紀の現代アフリカ美術

1960 年代の脱植民地化以降、各国で現代美術が展開した。ガーナのエル・アナツイ(廃酒瓶キャップを縫い合わせた巨大金属タペストリー、ヴェネチア・ビエンナーレ 2007 で国際的脚光)、南アフリカのウィリアム・ケントリッジ(チャコール・アニメーション)、ナイジェリア出身イギリス活動の Yinka Shonibare(ダッチワックス布での植民地批判)、ケニアの Wangechi Mutu などが世界的注目を集める。テート・モダンポンピドゥー・センター、ヴェネチア・ビエンナーレで現代アフリカ美術の重要展示が継続。

代表作・代表事例

時代・地域作品・遺跡所蔵・所在
サハラ先史タッシリ・ナジェール岩絵(世界遺産)アルジェリア
ノク文化ノク・テラコッタ頭像国立博物館(ラゴス)他
イフェ王国イフェ青銅頭像(13–14 世紀)ナイジェリア国立博物館・大英博物館
ベニン王国ベニン・ブロンズ・プラーク群大英博物館・ベルリン民族学博物館 他、世界に分散
ベニン王国ベニン王太后頭像(イディア像)大英博物館・メトロポリタン美術館 他
ヨルバゲレデ仮面・エポ祭具各所
ダンダン女面(白ダン)ケ・ブランリ博物館・ベルリン民族学博物館 他
コンゴヌキシ・ンコンディ呪物像(鉄釘を打ち込む)各所
バンバラチワラ羚羊冠各所
ドゴンテリエン親族像各所
エチオピアマグダラ写本群大英図書館 他
現代エル・アナツイ「Earth's Skin」各所
現代ウィリアム・ケントリッジ アニメーション諸作MoMA
現代Yinka Shonibare「The Swing (After Fragonard)」テート他

技法・特徴

  • 失蝋法ブロンズ:ベニン・イフェのブロンズは高度な失蝋法(ロストワックス)で鋳造され、薄壁・複雑形状を実現する。技術的にはルネサンス・ヨーロッパに匹敵する。
  • テラコッタ:ノク・イフェ・サオ(チャド湖周辺)など、土製人物像が広範に発達。素朴な造形に強い力感。
  • 木彫:サブサハラ仮面・神像の主要素材。シロアリ・カビで失われやすいため、現存例は 19–20 世紀のものが大半。
  • 仮面の機能:仮面は装飾品ではなく、舞踏・葬礼・通過儀礼で身体と一体化して着用される。鑑賞対象として展示される姿は本来の機能から切り離された状態。
  • ヌキシ・ンコンディ:コンゴの呪物像で、契約や祈願ごとに鉄釘を打ち込む。物質的に痕跡を蓄積する独特の彫刻形式。
  • :西アフリカのケンテ(ガーナ・アサンテ王国)、アディンクラ(ガーナ)、バンバラの泥染(マリ)、東アフリカのカンガなど多様な織物・染色伝統。
  • 現代美術の素材:エル・アナツイの廃酒瓶キャップ・タペストリー、Yinka Shonibare のダッチワックス布、Wangechi Mutu のコラージュなど、植民地史と工業材料を結ぶ素材選択が顕著。

影響と後世への継承

アフリカ美術は、(1)20 世紀初頭ヨーロッパ前衛キュビスムフォーヴィスム表現主義に決定的影響を与え、(2)戦後のアメリカ抽象表現主義(ノーマン・ルイス)・カラーフィールド絵画にも間接的に影響した。(3)20 世紀末以降、ベニン・ブロンズ返還運動、ケ・ブランリ博物館への文化財返還議論など、アフリカ美術の所在と帰属が国際美術界の中心問題となっている。(4)現代アフリカ美術は、ヴェネチア・ビエンナーレ、ドクメンタ、ダカール・ビエンナーレ、ケープタウン・アートフェアを通じて、グローバル現代美術の主要プレイヤーとなった。

主要コレクションは大英博物館・ケ・ブランリ博物館(パリ)・ベルリン民族学博物館・メトロポリタン美術館マイケル・C・ロックフェラー翼・スミソニアン国立アフリカ美術館(ワシントン)・ナイジェリア国立博物館・テート・モダンに分散。返還運動で一部はナイジェリア・ベナン・コンゴへ返還が始まっている。

学び方ガイド:はじめてアフリカ美術を学ぶ人へ

アフリカ美術は地域・時代の幅が広く、しかも多くは儀礼の文脈から切り離されて展示されるため、最初は文脈の理解が難しい。お勧めは(1)ベニン・ブロンズから入ること。13–19 世紀の宮廷工芸として、技術的・歴史的にも理解しやすい。次に(2)ヨルバ・ダン・コンゴの仮面と像を「儀礼で着用される動的造形」として再認識する。続いて(3)ピカソ「アヴィニョンの娘たち」とダン仮面を並べて、20 世紀美術の出発点を確認する。最後に(4)エル・アナツイとケントリッジで現代アフリカ美術に進めば、4500 年の射程が見えてくる。

よくある質問

Q. なぜ「アフリカ美術」と一括できるのか

厳密には一括できない。約 50 か国・1000 を超える民族集団・3000 以上の言語が併存する大陸を、西洋の美術史学が便宜上「アフリカ美術」とまとめてきた。近年は地域別・民族別・時代別の研究が進み、「アフリカ美術」という総称自体が植民地主義的視座の残滓として批判される。

Q. ベニン・ブロンズの返還問題とは

1897 年イギリス遠征隊がベニン王宮を略奪し、約 5000 点のブロンズ・象牙工芸品が欧米諸博物館に流出した。21 世紀に入り、ナイジェリア政府の継続的要求と国際世論の変化により、ドイツ(フンボルト・フォーラム)が 2022 年に返還開始、ロンドン・ホーニマン博物館・ケンブリッジ大学が一部返還、大英博物館は法的制約で消極的、という状況。

Q. なぜピカソは「アヴィニョンの娘たち」でアフリカ仮面を取り入れたのか

1907 年初春、ピカソはパリのトロカデロ民族博物館でダン・グレボの仮面に出会い、その「形式の力(plastic force)」と「呪術的機能」に衝撃を受けた。同年完成の「アヴィニョンの娘たち」右側 2 人物の顔は、その仮面の形式言語を取り込んでいる。これがキュビスムへ連続する形式革命の出発点となったが、同時に植民地主義的な「他者の形式の流用」としても批判される。

Q. 現代アフリカ美術はどこで見られるか

ヴェネチア・ビエンナーレのアフリカ各国パビリオン、ドクメンタ、ダカール・ビエンナーレ(セネガル)、ケープタウン・アートフェア(南アフリカ)、ザイツ・ムーカ現代アフリカ美術館(ケープタウン、2017 開館)、テート・モダンポンピドゥー・センターのアフリカ美術部門が主な舞台。

鑑賞のチェックポイント

  • 素材:ブロンズ・テラコッタ・木彫・象牙・布・廃材か。
  • 機能:宮廷工芸(オバの権威)か、儀礼造形(仮面・神像)か、日用工芸(家具・武具)か、現代美術品か。
  • 由来:略奪・購入・寄贈・現地制作のいずれか。返還議論の対象作品か否か。
  • 地域:西アフリカ(ヨルバ・ダン・バンバラ)、中央アフリカ(コンゴ・ファン)、東アフリカ(マサイ・チョクウェ)、南アフリカ(ンデベレ・ズールー)、エチオピア(独自正教絵画)。

関連記事・関連カテゴリへの導線

続けて、アフリカ美術の現代受容を読むなら西洋 20 世紀前半カテゴリキュビスムフォーヴィスムに進むのが王道。前史の北アフリカを補強するなら古代エジプト・近東カテゴリから接続して読むと、サブサハラとの連続と断絶が見えてくる。

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