白い余白の中の赤・青・黄。
黒い垂直と水平の格子。
ピート・モンドリアン(1872〜1944)は、絵画を究極まで還元した画家です。
その作品は、20 世紀の抽象絵画とデザインに決定的な影響を残しました。
目次
モンドリアンの生涯
具象から抽象への歩み
- 1872 年: オランダ・アメルスフォールトに生まれる
- 1892 年: アムステルダム王立美術アカデミー入学
- 初期は風景・教会・風車などの具象画
- 1900 年代後半、印象派・象徴主義の影響
パリ移住とキュビスムの吸収
- 1911 年: パリへ移住
- キュビスムを吸収、樹木をモチーフに段階的抽象化
- 「灰色の樹」「花咲くりんごの樹」の連作
新造形主義の確立
- 1917 年: テオ・ファン・ドゥースブルフらと「デ・ステイル」結成
- 1920 年: 著作『新造形主義(ネオ・プラスティシズム)』を発表
- 1920 年代以降、垂直水平・三原色の格子絵画を確立
晩年のニューヨーク時代
- 1938 年: ナチスを逃れロンドンへ
- 1940 年: ニューヨークへ
- 「ブロードウェイ・ブギウギ」など、ジャズの影響を取り入れる
- 1944 年: ニューヨークで死去
具象から抽象へのプロセス
モンドリアンの抽象は、突然生まれたものではありません。
10 年以上かけて、樹・海・教会の形を段階的に還元していきました。
- 樹→垂直水平の枝→格子線
- 波打つ海→十字模様のリズム→直角の構成
- 具象の「観察」が、最終的に純粋な平面構成に至る
新造形主義(ネオ・プラスティシズム)の原理
形態の還元
- 直線(垂直と水平)のみ
- 曲線・斜線を排除
- 面は長方形(正方形を含む)のみ
色彩の還元
- 三原色(赤・青・黄)のみ
- 無彩色(黒・白・灰)のみ
- 中間色・混色を排除
関係の絶対性
- 個別の形ではなく、形と形の「関係」を描く
- 左右非対称の動的均衡
- 普遍的な調和を、最小要素で実現する
哲学的背景
モンドリアンの抽象は、神智学(テオソフィー)の影響下にあります。
- 1909 年に神智学協会に加入
- 物質の背後にある「普遍的な真理」への到達
- 絵画を哲学・霊性の表現と捉える
- 個別性を超えた「客観的調和」の追求
デ・ステイル運動
1917 年にオランダで結成された前衛グループ。
- 機関誌『デ・ステイル』(様式の意)を発行
- 絵画・建築・家具・タイポグラフィを横断
- 主要メンバー:モンドリアン、ファン・ドゥースブルフ、リートフェルト
- 「シュレーダー邸」「赤と青の椅子」など建築・家具の傑作
ファン・ドゥースブルフとの決裂
- 1925 年、ドゥースブルフが斜線を導入
- モンドリアンは原理違反として強く反対
- 運動から脱退する
代表作
赤・青・黄のコンポジション(1930)
- クンストハウス・チューリッヒ所蔵
- 新造形主義の典型例
- 白い余白に三原色のブロックと黒の格子
ブロードウェイ・ブギウギ(1942〜1943)
- ニューヨーク近代美術館(MoMA)所蔵
- 晩年のニューヨーク時代の代表作
- 黒い線が消え、黄色の格子が動的に脈打つ
- ジャズと都市の鼓動を表現
ヴィクトリー・ブギウギ(未完、1944)
- 第二次世界大戦の勝利を予感した未完作
- ブロードウェイ・ブギウギをさらに発展
後世への影響
建築・デザイン
- バウハウス・国際様式建築
- ル・コルビュジエの絵画作品
- 20 世紀グラフィックデザイン全般
ファッション・大衆文化
- 1965 年イヴ・サンローラン「モンドリアン・ドレス」
- 家電・包装デザインへの応用
- 「モンドリアン的」が形容詞化
20 世紀後半美術
- ミニマリズムの先駆者として再評価
- 幾何学的抽象の系譜(ヨーゼフ・アルバース、エルズワース・ケリー)
主な所蔵先
- ハーグ市立美術館(オランダ、世界最大のモンドリアン・コレクション)
- MoMA(ニューヨーク)
- テート・モダン(ロンドン)
- クンストハウス・チューリッヒ
まとめ|モンドリアンを読む視点
- 具象を 30 年かけて還元し続けた論理的な抽象
- 三原色と垂直水平のみで普遍を表現
- 絵画を超えてデザイン全般に拡張した影響力
20 世紀前半の美術を理解するうえで、モンドリアンはカンディンスキーと並ぶ抽象の二大源泉です。

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