フィレンツェの街にそびえる、巨大な赤いドーム。
「クーポラ」と呼ばれるこの円蓋は、15 世紀の奇跡でした。
設計者は フィリッポ・ブルネレスキ(Filippo Brunelleschi, 1377〜1446)。
彼は ルネサンス建築の創始者であり、線遠近法(透視図法)の発明者でもあります。
目次
ブルネレスキとは
- 1377 年フィレンツェ生まれ、金細工師として出発
- 古代ローマで遺跡を実測した最初の近代人の一人
- ドナテッロと親友、彫刻家ギベルティの最大の競争相手
- 1418 年、フィレンツェ大聖堂ドーム設計コンクールで採用
線遠近法の発明
1410 年代、ブルネレスキは透視図法の最初の実演を行ったとされます。
絵画と建築を貫く合理的空間表現が、ここから始まります。
大聖堂ドームの難題
サンタ・マリア・デル・フィオーレ大聖堂は、1296 年に着工されました。
- 1418 年時点でドーム部分だけが未完成
- 直径 41.5m、世界最大の自立ドーム
- 当時の技術では支保工(仮設足場)が組めない巨大さ
- 「ドームを覆える人間はいない」と言われた
ブルネレスキの解法
二重殻構造
- 外殻と内殻の二重構造で重量を分散
- 内側のリブが力を受け、外殻が雨風から保護
- 歩行できる空間を内部に確保
支保工なしの工法
- レンガを「ヘリンボーン」(ニシンの骨)模様に積む
- レンガが互いに支え合って崩落を防ぐ
- 地上から円蓋を立ち上げる革新的な工法
専用機械の発明
- 建築資材を持ち上げる「オックス・ホイスト」
- 逆転ギア付きクレーン
- レオナルドのスケッチにも残る、近代機械の祖先
完成までの道のり
- 1420 年着工
- 1436 年に内殻完成、教皇エウゲニウス 4 世が献堂式
- 1461 年、頂部ランタンも完成
- 「天をつかんだ最初の建築」と讃えられる
ブルネレスキの他の代表作
捨て子養育院(1419 着工)
- ヨーロッパ初のルネサンス建築
- 古典的なアーチと柱頭の整然たる繰り返し
- 水平・垂直の比例による合理的ファサード
サン・ロレンツォ聖堂(1421〜)
- 古代バシリカを範にした内陣
- 灰色の石(ピエトラ・セレーナ)と白い壁の対比
- ルネサンス聖堂建築の規範に
パッツィ家礼拝堂(1430 頃〜)
- 正方形・円・球の組み合わせ
- 幾何学的整合性の極致
- 初期ルネサンス建築の理念を凝縮
サント・スピリト聖堂(1436〜)
- 晩年の集大成
- 正比例の身廊と側廊
- 古代神殿に近い純粋な空間
ルネサンス建築の特徴
- 古代ローマ建築(ウィトルウィウス)の参照
- 柱頭・コーニス・ペディメントの正確な引用
- 整数比の比例(モデュール)
- 球・立方体・円筒の幾何学的純粋さ
後世への影響
- レオン・バッティスタ・アルベルティが理論化(『建築論』1452)
- サン・ピエトロ大聖堂のドーム(ミケランジェロ設計)はクーポラを範に
- 米国国会議事堂など、後世の大ドーム建築の祖先
- 線遠近法は レオナルド「最後の晩餐」へと結実
訪れる際のポイント
- クーポラ内部の階段(463 段)を上れる
- ヴァザーリ「最後の審判」の天井画も鑑賞可
- 大聖堂付属博物館でブルネレスキのデスマスクを所蔵
- 近隣のパッツィ礼拝堂、捨て子養育院も合わせて巡回したい
まとめ|ブルネレスキを読む視点
- 古代再生と数学的合理性をつないだ建築家
- ドーム建設という工学的偉業を 16 年でやり遂げた
- 線遠近法・建築理論・機械工学を一人で開いた万能人
ルネサンスは、彼のドームが立ち上がった瞬間に始まったと言えます。

あなたの意見を聞かせてください