西暦 79 年 8 月 24 日。
ヴェスヴィオ火山が大噴火し、ナポリ近郊の都市ポンペイは火山灰に埋まりました。
ポンペイ壁画は、古代ローマ絵画の実態を直接知ることができる、世界で最も貴重な絵画資料群です。
目次
ポンペイ壁画とは
- 所在:イタリア・ナポリ近郊(ポンペイ・ヘルクラネウム・スタビアエ・オプロンティス)
- 埋没年:西暦 79 年 8 月 24 日(ヴェスヴィオ火山噴火)
- 発見:1748 年(ブルボン王朝による発掘開始)
- 残存数:個人邸宅約 100 軒の壁画、計数千点
- 1997 年:ユネスコ世界遺産登録
- 主要保管:ナポリ国立考古学博物館、現地遺跡公園
4 様式の分類(マウ分類)
ドイツの考古学者アウグスト・マウ(1882)が提唱した古典分類です。
| 様式 | 時期 | 特徴 |
|---|---|---|
| 第 1 様式(構造様式) | 前 200-80 年 | 大理石風の彩色漆喰、平面装飾 |
| 第 2 様式(建築様式) | 前 80-15 年 | 遠近法による架空建築、壁を「破る」錯視 |
| 第 3 様式(装飾様式) | 前 15-後 50 年 | 細密装飾、平面化、中央パネル絵画 |
| 第 4 様式(幻想様式) | 後 50-79 年 | 第 2 と第 3 の融合、複雑で華麗 |
必見壁画 8 選
1.「秘儀荘の儀礼壁画」(前 60-50 年、第 2 様式)
- ディオニュソス密儀の入信儀式を描いた連続画
- 等身大の人物、赤色を背景に劇的構成
- 古代絵画の最高峰の一つ
- 所在:ポンペイ「秘儀荘」(Villa dei Misteri)
2.「アレクサンドロス・モザイク」(前 100 年頃)
- 厳密にはモザイクだが、原画は壁画
- イッソスの戦いでアレクサンドロスとダレイオス 3 世
- 古代絵画の動勢表現の頂点
- 所蔵:ナポリ国立考古学博物館
3.「フローラ」(後 1 世紀、ヘルクラネウム)
- 後ろ向きで花を摘む女性
- 絹のような薄物の衣、優美な姿態
- 所蔵:ナポリ国立考古学博物館
4.「サッフォー像」(後 1 世紀)
- ペンと書字板を持つ若い女性
- 知性と感性の象徴
- 古代の女性像の代表
5.「テレンティウス・ネオとその妻」(後 1 世紀)
- パン屋とその妻の二人肖像
- 市民階級のリアリスティック描写
- ローマ社会の日常を伝える
6.「ボスコレアーレの装飾画」(前 50-40 年)
- ファルネシナ荘とほぼ同期
- 第 2 様式の最高傑作
- 建築モチーフによる空間錯視
- 所蔵:メトロポリタン美術館(ニューヨーク)に一部
7.「ヘラクレスとテレフォス」(後 1 世紀、ヘルクラネウム)
- 「アウグストゥス家壁画」と呼ばれる
- 神話画の典型例
- 所蔵:ナポリ国立考古学博物館
8.「貝殻のヴィーナス」(後 1 世紀)
- ヴィーナス像のヘレニズム的継承
- ボッティチェリ「ヴィーナスの誕生」の遠い祖型
フレスコ技法の実際
- 「ブオン・フレスコ」:湿った漆喰に直接彩色
- 顔料は石灰水と化学反応し、漆喰と一体化
- 耐久性は高いが、塗布速度が必要
- ローマでは複数層の漆喰(最大 7 層)を塗る
- 表面を研磨し、大理石光沢を出す
- 仕上げに「セッコ」(乾式)で部分修正
主要邸宅と特色
| 邸宅名 | 特色 |
|---|---|
| 秘儀荘 | ディオニュソス密儀画、第 2 様式の最高峰 |
| ファウヌスの家 | アレクサンドロス・モザイク |
| ウェッティ家 | 第 4 様式の華麗な装飾 |
| 悲劇詩人の家 | 「番犬注意(CAVE CANEM)」モザイク |
| ファルネシナ荘(ローマ) | 第 2 様式の遠近法の頂点 |
主題のジャンル
- 神話画:ヘラクレス、ディオニュソス、ペルセウス
- 肖像画:邸主夫妻、エンカウスティック技法も
- 静物画:果物・パン・魚(古代ジャンル絵画の起源)
- 風景画:港湾・神域・庭園(パノラマ的構成)
- 劇場画:演劇場面、仮面のモチーフ
- エロティック画:娼館(ルパナレ)の壁画
後世の絵画への影響
- 18 世紀ネオクラシシズム(ダヴィッド、メンクス)
- ポンペイ赤・ポンペイ黒など色彩語の語源
- イングレス、アングルらアカデミズム画家の参照源
- 19 世紀英ヴィクトリア朝のローマ趣味画(アルマ=タデマ)
- 20 世紀フレスコ復興(ディエゴ・リベラのメキシコ壁画)
保存と修復の課題
- 発掘後の経年劣化(紫外線・湿度・微生物)
- 2010 年「剣闘士の家」崩落事件
- EU 出資の Grande Progetto Pompei(2012-)
- デジタルアーカイブ化(3D スキャン、ドローン撮影)
- VR 復元プロジェクトも進行中
まとめ|ポンペイ壁画を読む視点
- 火山灰に保存された古代ローマ絵画の唯一の実物資料
- 4 様式の変遷で、共和政末期〜帝政初期の美意識を辿れる
- 神話・日常・静物・風景の主題分類はその後 2000 年継続
- 失われた古代ギリシャ絵画の様式を間接的に推測できる
続けて ローマ建築の革新(ドームとコンクリート) や ローマ・モザイクの世界 を読むと、古代ローマ視覚文化の全体像が見えてきます。

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