15 世紀末、ニュルンベルクの工房から、印刷された一枚の版画が世界を駆け巡りました。
その作者は アルブレヒト・デューラー(Albrecht Dürer, 1471〜1528)。
彼は ルネサンス美術を北方ヨーロッパに移植し、版画を独立した芸術ジャンルへと押し上げた人物です。
目次
デューラーとは
- 1471 年、ニュルンベルク生まれ
- 金細工師の父から精密な線描を学ぶ
- 2 度のイタリア旅行(1494・1505)でルネサンスを吸収
- 北方初の「自画像を芸術として描いた画家」
絵画・素描・水彩・版画・理論書まで網羅した万能人で、北の レオナルドとも呼ばれました。
版画を芸術に変えた
デューラー以前、版画は安価な複製図像でした。
- 聖人像や暦、トランプの量産物
- 絵画より一段下の地位
- 署名のない、職人仕事
デューラーはここを根本から変えます。
- 「AD」モノグラムで作者を明示
- 絵画と同等の構図・人物表現
- 書籍・教養層を顧客に取り込む販路の開拓
- ヨーロッパ初の「国際的アートビジネス」を展開
木版画と銅版画
木版画(Woodcut)
- 「黙示録」連作(1498):聖書の黙示録を 15 図で映像化
- 「大受難伝」「小受難伝」「マリア伝」など連作で物語表現
- 太く力強い線、聖書教育の役割
銅版画(Engraving)
- 金属に直接刃を入れる、最も精緻な技法
- 「騎士と死と悪魔」「書斎の聖ヒエロニムス」「メランコリア I」(1513-14)
- 「メランコリア I」は西洋美術史上最も研究された 1 枚
- 魔方陣・コンパス・砂時計など象徴に満ちる
エッチング(技法)
- 1515 年頃、銅版画と並行して試行
- のちに レンブラントの世紀へとつながる種を蒔く
絵画の代表作
| 作品 | 年 | 所蔵 |
|---|---|---|
| 「自画像」 | 1500 | アルテ・ピナコテーク(ミュンヘン) |
| 「アダムとエヴァ」 | 1507 | プラド美術館 |
| 「四人の使徒」 | 1526 | アルテ・ピナコテーク |
| 「野ウサギ」(水彩) | 1502 | アルベルティーナ(ウィーン) |
南北のかけ橋
イタリア滞在で ヴェネツィア派の色彩、ベッリーニやマンテーニャの構築性を吸収しました。
- 遠近法・解剖学・人体比例論をドイツに持ち帰る
- 『人体均衡論』『測定法教則』を出版
- 北方の細密描写と南方の理論を融合
後世への影響
- ヨーロッパ全域に「巨匠の版画」のモデルを提示
- クラナッハ、アルトドルファー、ホルバインら北方ルネサンスへの波及
- 17 世紀 レンブラントのエッチング芸術の前提
- 20 世紀の 表現主義版画も「黙示録」を再評価
主な所蔵先
まとめ|デューラーを読む視点
- 版画を「複製」から「芸術」へと押し上げた最初の画家
- 北方の細密と南方の理論を統合した万能人
- 「メランコリア I」「黙示録」は西洋象徴学の宝庫
ルネサンスを学ぶ際、版画というメディアの誕生を押さえるとデューラーの位置がよく見えてきます。

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