「アイデアそのものが作品である」
1967 年、米国の批評家 ソル・ルウィット がそう書きました。
絵の具も、ブロンズも、キャンヴァスも要らない。
必要なのは、概念(concept)だけ。
コンセプチュアル・アート(Conceptual Art)は、20 世紀後半美術を最も深く変えた運動のひとつです。
目次
コンセプチュアル・アートとは
- 定義:物質的形態より、概念・指示・テキストを作品とする美術
- 時期:1960 年代後半〜現在も継続
- 地理:米国・英国・日本・南米・東欧で同時多発
- 源流:マルセル・デュシャン「泉」(1917)
- マニフェスト:ソル・ルウィット「Paragraphs on Conceptual Art」(1967)
歴史的背景
- 1960 年代:商業化する美術市場への反発
- ベトナム戦争・公民権運動の社会的緊張
- デュシャンのレディメイド再評価(1959 年フィラデルフィア展)
- ミニマリズムからの分岐(物体さえ不要に)
- 言語学・記号論・写真理論の影響
代表作 10 選
1.「泉」マルセル・デュシャン(1917)
- 男性用便器に「R. Mutt」と署名
- 独立美術家協会展に出品 → 拒否
- レディメイド=「アーティストが選んだ物が作品」
- コンセプチュアル・アートの原点
2.「3 つの椅子(1 と 3 つの椅子)」ジョセフ・コスース(1965)
- 実物の椅子・椅子の写真・椅子の辞書定義の 3 点組
- 「椅子」の物・像・概念の関係を示す
- 言語と物の哲学的探求
3.「日付絵画」河原温(1966-2014)
- 毎日その日の日付だけを描いた油彩
- 「JAN. 4, 1966」のような単純なテキスト
- 48 年間続けた連作、約 3,000 点
- 「I am still alive」電報シリーズも併行
4.「グレープフルーツ」オノ・ヨーコ(1964)
- 「指示書」の本
- 「あなたが今いる場所からきれいに想像する」など
- 観客が作品を実行
- のちのジョン・レノン「イマジン」の源流
5.「壁画指示書」ソル・ルウィット(1968-)
- 作家は文書で指示を出す
- 実際の制作は他人が行う
- 作品=指示書+施工
- 所有権・複製可能性の革命
6.「言語ピース」ローレンス・ウィナー(1968-)
- 壁面に文字だけを書く
- 「A WALL CRATERED BY A SINGLE SHOTGUN BLAST」
- テキスト = 彫刻という宣言
7.「同一性検証」ハンス・ハーケ(1971)
- NY 不動産王の所有物件を地図と書類で展示
- グッゲンハイム展示中止に
- 制度批判の極北
8.「メイ I ヘルプ ユー?」マルセル・ブロータース(1972)
- 架空の美術館「現代美術館・鷲の部門」を実展示
- 美術制度自体を批評
9.「フェッド・アップ」ヴィト・アコンチ(1971)
- パフォーマンス:ギャラリーの床下で 3 週間自慰
- 来館者は気配だけを感じる
- 身体・言語・倫理の境界
10.「100 万年」河原温(1969-)
- 過去 100 万年と未来 100 万年を年単位でタイプ
- 10 巻の本
- 時間そのものを物体化
派生・関連運動
- パフォーマンス・アート(ヴィト・アコンチ、マリーナ・アブラモヴィッチ)
- 制度批判(ハンス・ハーケ、マイケル・アッシャー)
- アペロプリエーション・アート(シェリー・レヴィン、リチャード・プリンス)
- ポスト・コンセプチュアル:ジェフ・ウォール、ハニ・ラシッド
- YBA(ヤング・ブリティッシュ・アーティスト):ダミアン・ハースト、トレイシー・エミン
日本のコンセプチュアル・アート
- 河原温(東京→NY):日付・電報・100 万年
- 松澤宥(長野):「消滅」「観念絵画」
- 関根伸夫「位相 – 大地」(1968)もの派の起点
- 赤瀬川原平「千円札裁判」(1963-)
コンセプチュアル・アートの理論
- ソル・ルウィット「Paragraphs on Conceptual Art」(1967、Artforum)
- ジョセフ・コスース「Art After Philosophy」(1969)
- ルーシー・リッパード「Six Years: The Dematerialization of the Art Object」(1973)
- 「非物質化(dematerialization)」がキーワード
展覧会の歴史
- 1969「When Attitudes Become Form」(ベルン、ハロルド・ゼーマン)
- 1970「Information」MoMA(キネス・マクシェイン)
- 1972「ドクメンタ 5」(カッセル、ハロルド・ゼーマン)
- 1995「Reconsidering the Object of Art: 1965-1975」MOCA LA
- 2007「Open Systems: Rethinking Art c. 1970」テート・モダン
評価と論争
- 「皇帝の新しい服」批判(一般人の戸惑い)
- 「美術の自殺」と評する保守批評
- 逆に:美術を哲学・社会・言語学に開いた
- 現代美術の標準言語に
まとめ|コンセプチュアル・アートを読む視点
- 「アイデアこそが作品」を宣言した 20 世紀の革命
- デュシャンを起源に、コスース・河原温・オノ・ヨーコらが実装
- パフォーマンス・制度批判・アペロプリエーションへ展開
- 21 世紀現代美術の基盤を形成
続けて デュシャンとレディメイドの衝撃 や もの派の登場 を読むと、現代美術の流れが立体的に深まります。

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