桃山城郭:姫路城と大坂城|白鷺城・天下普請が示した近世城郭の到達点
桃山城郭とは、16 世紀後半から 17 世紀初頭にかけて築かれた 近世城郭の代表作群を指します。
1576 年に織田信長が築いた 安土城を起点として、豊臣秀吉の 大坂城、池田輝政の 姫路城、徳川家康の 江戸城へと続く、日本城郭建築の最盛期です。
中世の山城(土塁・木造)から近世の平城・平山城(石垣・瓦・漆喰)への転換は、軍事技術・行政機能・象徴性の三位一体で展開しました。本稿では現存天守を擁する代表的城郭を読み解きます。
読みたい部分にスキップできます
近世城郭の特徴
- 天守閣:城主の象徴的居所、軍事司令塔、武器庫
- 石垣:野面積み・打込接ぎ・切込接ぎの三段階
- 瓦葺:本瓦葺、鯱(しゃち)・鬼瓦の装飾
- 漆喰塗:白漆喰の総塗籠、耐火性・防弾性
- 櫓・門・狭間:防御施設の重層構成
- 城下町:武家屋敷・町人町・寺社の計画都市
安土城(1576–1582)
| 項目 |
データ |
| 所在 |
滋賀県近江八幡市(旧蒲生郡安土町) |
| 築城 |
1576 年 1 月着工、1579 年天守完成 |
| 築城主 |
織田信長 |
| 設計 |
丹羽長秀(普請奉行)、岡部又右衛門(大工棟梁) |
| 天守 |
地下 1 階、地上 6 階(黒漆塗・金箔押) |
| 消失 |
1582 年本能寺の変直後に焼失 |
- 近世城郭の出発点。天守を初めて居住空間として構想
- 各階の障壁画は 狩野永徳 が担当
- イエズス会宣教師ルイス・フロイスが「七階の塔」と記録
- 地上 6 階の最上階は金閣風の金箔貼り
- 2006 年「安土城再現プロジェクト」で 3D 復元
大坂城(1583–1598)
| 項目 |
データ |
| 所在 |
大阪市中央区 |
| 築城 |
1583 年着工、1585 年大手門・本丸完成 |
| 築城主 |
豊臣秀吉 |
| 天守 |
地下 2 階、地上 5 階(外観 5 重、約 40m) |
| 消失 |
1615 年大坂夏の陣で焼失 |
| 徳川再築 |
1620–1629 年、徳川秀忠が現存の縄張で再築 |
| 現天守 |
1931 年復興天守(鉄筋コンクリート) |
- 豊臣秀吉「天下統一の象徴」として計画
- 天下普請:諸大名を動員した大規模築城
- 本丸・二の丸・三の丸の三重構造
- 外堀・内堀・空堀の三重水堀
- 1614–1615 大坂冬・夏の陣で豊臣家滅亡、城は焼失
- 徳川再築の縄張・石垣が現存(大坂城公園として保存)
姫路城(1601–1609)
| 項目 |
データ |
| 所在 |
兵庫県姫路市 |
| 築城 |
1601 年着工、1609 年完成 |
| 築城主 |
池田輝政(家康の娘婿) |
| 天守 |
地下 1 階、地上 6 階の大天守+三つの小天守 |
| 形式 |
連立式天守、本瓦葺、白漆喰総塗籠 |
| 世界遺産 |
1993 年登録(日本初) |
| 国宝 |
大天守、東小天守、西小天守、乾小天守、渡櫓 4 棟 |
- 白鷺城(しらさぎじょう、はくろじょう)の異名
- 現存 12 天守の中で最大規模・最高完成度
- 連立式:大天守と小天守 3 棟を櫓で繋ぐ構造
- 2009–2015 年「平成の大修理」(保存修理)
- 築城当時の遺構が 80% 以上残る
- 城域の縄張は螺旋型、攻め手を翻弄
松本城(1593–1594)
- 長野県松本市、現存 12 天守、国宝
- 築城主・石川数正(家康・秀吉の家臣)
- 大天守 5 重 6 階+乾小天守+渡櫓+辰巳附櫓+月見櫓の連結複合式
- 外壁は 下見板張+上部白漆喰の二段構成
- 北アルプスを背景にした写真映え抜群
彦根城(1603–1622)
- 滋賀県彦根市、現存 12 天守、国宝
- 築城主・井伊直継(直政の長男)
- 3 重 3 階の小型天守、入母屋破風と唐破風が交互に配される
- 旧大津城の天守を移築した再利用建築
- 2025 年現在、世界遺産登録に向けて準備中
犬山城(1601 頃)
- 愛知県犬山市、現存 12 天守、国宝
- 築城主・小笠原吉次(直前期)、後の城主・成瀬正成
- 最古の現存天守(1537 年棟札と伝わる、近年では 1601 年説)
- 木曽川に臨む断崖の上、地形を活かした要害
- 三層四階の比較的小型な構造
松江城(1611)
- 島根県松江市、現存 12 天守、国宝
- 築城主・堀尾吉晴
- 4 重 5 階+地下 1 階、外観は黒漆塗の質実な造形
- 2015 年に再国宝指定(戦後 5 件目)
- 包板(つつみいた):木材を板で覆う独自工法
名古屋城(1612)
- 愛知県名古屋市、徳川家康が築城
- 天下普請で諸大名を動員
- 金鯱で有名、5 重 5 階+地下 1 階の超巨大天守
- 1945 年空襲で焼失
- 1959 年鉄筋コンクリート復興。現在は木造復元計画進行中
- 本丸御殿が 2018 年に完全復元・公開
江戸城(1607–1638)
- 東京都千代田区、徳川幕府の本拠
- 1607 年第一次天守、1638 年第三次天守(高さ 58m)
- 1657 年明暦の大火で焼失、以後再建されず
- 本丸・二の丸跡は皇居東御苑として一般公開
- 現存する 富士見櫓・桜田巽櫓のみ
石垣の発達
- 野面積み(のづらづみ):自然石をそのまま積む。安土・小田原
- 打込接ぎ(うちこみはぎ):石材を加工して隙間を減らす。大坂・姫路
- 切込接ぎ(きりこみはぎ):完全に加工して隙間なし。江戸・名古屋
- 穴太衆(あのうしゅう):近江坂本の石工集団、戦国〜江戸の城郭石垣を支える
桃山城郭の象徴的意味
- 軍事施設から政治・行政・儀礼空間への転換
- 天守=武家権威の象徴、地方支配の表象
- 城下町の計画都市化(武家町・町人町・寺社町の分離)
- 狩野永徳 ら絵師による障壁画は権力の可視化
現存 12 天守一覧
| 城 |
所在 |
指定 |
| 姫路城 |
兵庫 |
国宝・世界遺産 |
| 松本城 |
長野 |
国宝 |
| 彦根城 |
滋賀 |
国宝 |
| 犬山城 |
愛知 |
国宝 |
| 松江城 |
島根 |
国宝 |
| 弘前城 |
青森 |
重要文化財 |
| 丸岡城 |
福井 |
重要文化財 |
| 備中松山城 |
岡山 |
重要文化財 |
| 松山城 |
愛媛 |
重要文化財 |
| 宇和島城 |
愛媛 |
重要文化財 |
| 高知城 |
高知 |
重要文化財 |
| 丸亀城 |
香川 |
重要文化財 |
近代以降の城郭
- 明治 6 年(1873)廃城令:多くの城が破却
- 大正・昭和初期:地方都市の象徴として復興運動
- 戦時下の空襲で名古屋・広島・福山・水戸・大垣城が焼失
- 戦後復興天守:鉄筋コンクリート造の大坂・名古屋・広島・小田原
- 21 世紀:木造復元志向。掛川城、大洲城、白河小峰城
桃山城郭を歩くポイント
- 天守の構造(連立式・連結式・独立式)を見比べる
- 石垣の積み方の段階を観察
- 狭間(鉄砲・矢狭間)、石落とし、櫓門の配置
- 城下町の街路パターン(食い違い・桝形)
- 障壁画(御殿の絵画)と城郭が一体の総合芸術
まとめ|桃山城郭を読む視点
- 安土城が起点、姫路城が完成形、江戸城が頂点
- 軍事・政治・象徴の三機能の統合
- 石垣・天守・障壁画・城下町の総合芸術
- 世界遺産・国宝としての保存と、復興天守の課題
あわせて 狩野永徳と障壁画 や 安土桃山美術の全体像 を読むと、城郭建築と内部空間の絵画が一体となった桃山美術の総合性が立ち上がります。
あなたの意見を聞かせてください