赤・緑・青——空が紫で、人の顔が緑色で塗られた絵画。
1905年のパリ秋季サロンで、こうした作品群を見た批評家ルイ・ヴォークセルは「野獣(Fauves)たちの檻だ」と評しました。
こうしてフォーヴィスム(野獣派)の名が生まれます。
20世紀絵画の最初の運動として、後のキュビスムや抽象絵画への扉を開きました。
目次
フォーヴィスムとは何か
- 1905〜1908年頃のごく短い運動
- 中心はアンリ・マティス(1869〜1954)
- 共闘者: アンドレ・ドラン、モーリス・ド・ヴラマンク、ラウル・デュフィら
共通する特徴は、自然色に縛られない解放された色彩です。
解放された色彩の意味
従来の絵画では、空は青、肌はピンク、葉は緑——という自然主義の色が前提でした。
- マティスらは、画面の感情や構造を優先して色を選ぶ
- 「赤い空」「緑の顔」が表現として正当化される
- 色そのものが主題となる、純粋絵画への第一歩
この姿勢は、ゴッホ・ゴーガンのポスト印象派から直接受け継がれた発想でもあります。
マティスの代表作
帽子の女(1905)
サロン・ドートンヌで「野獣」と呼ばれるきっかけになった一枚。
- 妻アメリーをモデルにした肖像
- 顔の影が緑、ハイライトが朱、衣装が紫
- 顔の形は伝統的だが、色彩だけが自由化されている
緑のすじのあるマティス夫人(1905)
顔の中央に緑色の縦線を入れた肖像。
- 影と光を色面で大胆に分割
- 立体感を捨て、平面の力で表現する
ダンス(1909〜10)
5人の裸婦が手を取り合い円環を描く大画面。
- 赤い人物、青い空、緑の地面の3色構成
- 輪郭を太く取り、彩色を平面化
- 色と動きだけで成り立つ近代絵画の到達点
マティスの絵画哲学
マティスは「私が望むのは均衡・純粋・静謐の芸術である」と語りました。
- 絵画は装飾を恐れない、と肯定
- 身体の伸縮・変形は表現のために許される
- 「肘掛け椅子のような芸術」(疲れた人を癒す絵画)を理想に
切り紙絵への展開
晩年、マティスは病床で切り紙絵(グワッシュで彩色した紙を切り抜いて構成する作品)を生み出します。
- 「ジャズ」「ポリネシア」「青いヌード」シリーズ
- 絵画と彫刻の境界を超える、晩年の代表作
- 南仏ヴァンスのロザリオ礼拝堂もこの延長で設計
同時代との関係
後世への影響
まとめ|フォーヴィスムを読み解く視点
- 色を「自然の写し」から「画家の選択」へ解放した
- マティスは平面性・装飾性・色彩を生涯の主題にし続けた
- 運動としては短命だが、20世紀美術の出発点に
20世紀前半の美術を理解するには、まずマティスの色彩革命から始めるのが最短ルートです。

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