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喜多川歌麿の美人画|「ビードロを吹く娘」が世界を魅了した浮世絵の頂点

江戸の遊里・吉原。

娘がビードロのおもちゃを口にあて、息を吹き込む。

吹き戻しの「ピーピー」という音が聞こえそうな表情。

喜多川歌麿(きたがわ うたまろ、1753 頃-1806)は、浮世絵 の中でも美人画を頂点まで押し上げた絵師です。

パリ万博を機に世界中のジャポニスムに影響を与え、モネドガゴッホ も愛蔵しました。

目次

喜多川歌麿の生涯

  • 生年:1753 年頃(諸説あり、川越または江戸)
  • 本名:北川市太郎
  • 師:鳥山石燕
  • 初名:北川豊章(1770 年代)
  • 1781 年頃、「歌麿」と改名
  • 1791-95 年「大首絵」スタイル確立
  • 1804 年、太閤秀吉の絵を出版し手鎖 50 日の刑
  • 1806 年没(享年 53 頃)
  • 江戸・専光寺(中野)に墓

美人画の革新:大首絵への転換

  • 従来:鈴木春信・鳥居清長の全身像(着物全体重視)
  • 歌麿:胸から上のクローズアップ「大首絵」
  • 背景に雲母(きら)摺りの銀色グラウンド
  • 顔の表情・指の動き・髪の毛 1 本にまで描き分け
  • 女性の「内面」を絵画化

代表作 10 選

1.「ビードロを吹く娘」(1792-93 頃)

  • 「婦女人相十品」シリーズの 1 枚
  • 大判錦絵、雲母地
  • 東京国立博物館・大英博物館・ボストン美術館に
  • 初期大首絵の代表作

2.「寛政三美人」(1793 頃)

  • 富本豊雛・難波屋おきた・高島おひさの 3 人
  • 遊女ではなく町人娘を主役に
  • 3 人を扇形に配した構図
  • シカゴ美術館・MFA ボストン

3.「歌撰恋之部 物思恋」(1793-94 頃)

  • シリーズ「歌撰恋之部」全 5 作
  • 恋の各局面を女性の表情で表現
  • 歌川広重・北斎にも影響

4.「ポッピンを吹く女」(1795-96 頃)

  • 「ビードロ」の別称
  • 透明な吹きガラスのおもちゃ
  • 少女のあどけない口元

5.「青楼十二時」(1794 頃)

  • 遊郭の 1 日 12 時を描く連作
  • 子の刻〜亥の刻まで
  • 遊女の生活ドキュメント

6.「美人面相九景」(1795-96 頃)

  • 9 種類の女性タイプを類型化
  • 母・娘・遊女・芸者などを大首絵で

7.「絵本太閤記」関連の絵(1804)

  • 豊臣秀吉と側室の絵
  • 幕府からの処罰対象
  • 歌麿の死期を早めたとされる

8.「狂歌絵本:絵本虫撰」(1788)

  • 狂歌と昆虫の絵本
  • 初期の傑作、植物・昆虫の精密描写

9.「歌枕」(1788)

  • 狂歌・春画
  • 初期の春画ジャンル代表

10.「ナンバヤ・オキタ」

  • 難波屋の茶屋娘・おきたの肖像
  • 大判数十種、当時のアイドル

歌麿の技法的特徴

  • 髪:黒色を 4 段階の濃淡で摺り分け、髪 1 本ごとの表現
  • 肌:紅色のぼかしで頬の血色
  • 背景:白雲母(しろきら)・黒雲母(くろきら)の銀色背景
  • 着物:型紙摺り(きらすり・なみだり)で文様の精度
  • 版元:蔦屋重三郎(耕書堂)の商業力

蔦屋重三郎との関係

  • 1782 年頃から版元・蔦屋重三郎と契約
  • 歌麿の代表作の多くは蔦屋出版
  • 1797 年蔦屋没後は別の版元へ
  • 1804 年処罰後は急速に作品数減少
  • 蔦屋+歌麿+写楽の組合せが寛政の出版黄金期

同時代の浮世絵師

  • 東洲斎写楽:1794-95 のみ活動した役者絵師
  • 葛飾北斎:歌麿よりやや若い世代
  • 歌川広重:歌麿の没後にデビュー
  • 鳥居清長:大首絵以前の美人画の代表

処罰事件「絵本太閤記」

  • 1804 年、絵本太閤記関連の出版物
  • 豊臣秀吉と側室・諸大名を風俗絵で描く
  • 江戸幕府は徳川家のライバル徳川以前の権力者描写を禁じる
  • 歌麿は手鎖 50 日
  • 蔦屋系版元 5 名・絵師数名が処罰
  • 歌麿は 2 年後死去、衝撃が原因という説

欧米への伝播:ジャポニスム

  • 1856 年、フランスの画家ブラックモンが浮世絵を発見
  • 1867 年パリ万博で日本美術ブーム
  • 1888 年、ザミュエル・ビング誌「ル・ジャポン・アーティスティック」
  • 1891 年、エドモン・ド・ゴンクール『歌麿論』
  • モネ:水蓮の庭の構図に応用
  • ドガ:女性の身体描写
  • ゴッホ:模写と賛辞

主要所蔵館

所蔵数
東京国立博物館 200 点超
大英博物館(ロンドン) 500 点超
MFA ボストン 世界最大級コレクション
シカゴ美術館 「寛政三美人」など
ホノルル美術館 James A. Michener Collection
太田記念美術館(東京) 美人画専門

展覧会の歴史

  • 1995 千葉市美術館「歌麿の世界」
  • 2014 ワシントン・スミソニアン「Lost and Found: Masterpieces by Utamaro」
  • 2016 大英博物館「Hokusai: Beyond the Great Wave」関連
  • 2018 千葉市美術館「歌麿没後 200 年」(350 点)

まとめ|歌麿を読む視点

  • 大首絵を確立し、女性の内面を浮世絵で描いた革新者
  • 「ビードロを吹く娘」「寛政三美人」が代表作
  • 蔦屋重三郎との連携が寛政期出版黄金期を生んだ
  • ジャポニスムを通じて欧州印象派にも影響

続けて 東洲斎写楽の役者絵葛飾北斎と冨嶽三十六景 を読むと、寛政〜文政期の浮世絵の絶頂期が立体的に見えてきます。

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