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スラブ叙事詩 完全ガイド|ミュシャが18年で描いた20点連作の全主題

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チェコの宝「スラブ叙事詩」-ミュシャの巨大連作と、売れる仕事と本当に描きたい絵。

1910 年から 1928 年までの 18 年間。

アルフォンス・ミュシャは祖国チェコに帰り、最大 6.1 × 8.1 メートル級の大画面 20 点を描き続けた。

本記事では「スラブ叙事詩」全 20 点の主題と所蔵移転史を、初学者でも全体像が掴めるように整理する。

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「スラブ叙事詩」基本データ

  • 制作: 1910〜1928 年(18 年間)
  • 作者: アルフォンス・ミュシャ
  • 形式: テンペラと油彩の併用、キャンバス
  • サイズ: 最大 610 × 810 cm、最小でも 405 × 480 cm
  • 点数: 全 20 点
  • 制作場所: 西ボヘミアズビロフ城のホール
  • 財政支援: シカゴの実業家チャールズ・R・クレイン
  • 初公開: 1928 年プラハ市への寄贈と同時に全 20 点公開

3つの主題群 — 連作の構成原理

20 点は地理的・主題的に大きく 3 つの群に分かれる。

第一群(#1〜#3):神話的起源

  • #1 原故郷のスラヴ民族(1912)— 4〜6 世紀、東欧平原を逃げる男女と巨大な精霊像。連作全体の神話的起源を提示する
  • #2 ルヤーナ島のスヴァントヴィート祭(1912)— バルト海ルヤーナ島の多神教神スヴァントヴィート祭祀。スラヴ・キリスト教化以前の宗教世界
  • #3 スラヴ式典礼の導入(1912)— 9 世紀、聖キュリロス・聖メトディオス兄弟による教会スラヴ語典礼。キリル文字の起源を示す重要場面

第二群(#4〜#15):中世スラヴ諸国家の形成と宗教改革

  • #4 ブルガリア皇帝シメオン1世(1923)— 10 世紀ブルガリア帝国最盛期、宮廷で写本編纂
  • #5 ボヘミア王プシェミスル・オタカル2世(1924)— 13 世紀北東欧最強王権者の婚礼祝祭
  • #6 セルビア皇帝ステファン・ドゥシャンの戴冠(1923)— 1346 年スコピエでの戴冠式
  • #7 クロムニェジーシュのヤン・ミリーチ(1916)— 14 世紀チェコ宗教改革者ミリーチが娼館を女子修道院に改修。フス改革の前史
  • #8 ベツレヘム礼拝堂で説教するヤン・フス(1916)— 1412 年プラハ、フスがチェコ語で民衆に説教する場面。連作のクライマックス
  • #9 クジーシュキ村集会(1916)— 1419 年、フス派民衆が中央ボヘミアの丘に集結。フス戦争の前夜
  • #10 ヴィートコフ山の戦いの後(1924)— 1410 年、グルンヴァルトの戦い後の戦場
  • #11 ヴィードニェのペトル・ヘルチツキー(1918)— 1420 年、フス派非暴力主義の祖を描く。チェコ兄弟団の起源
  • #12 イヴァンチツェのクラリツェ聖書印刷(1914)— 1578 年、ミュシャ生地イヴァンチツェのチェコ兄弟団による聖書印刷
  • #13 ヤン・アモス・コメニウスの最後の日々(1918)— 1670 年、亡命先オランダ・ナールデンで死を待つ近代教育の祖
  • #14 ロシア農奴解放(1914)— 1861 年、モスクワ赤の広場で解放令を聞くロシア農民
  • #15 聖アトス山(1926)— 東方正教の聖地アトス山。スラヴ正教世界の精神的支柱

第三群(#16〜#20):近代と讃歌

  • #16 オムラジナ協会の誓い(1926)— 1894 年チェコ青年運動オムラジナ協会の誓い
  • #17, #18, #19— 各場面で近代スラヴ民族の自覚と独立への動きを描く
  • #20 スラヴの讃歌(1926)— 連作の最終章。古代から現代まで全スラヴ民族が一画面に集結する寓意的勝利図

制作経緯 — パリ万博から完成まで

ミュシャの「スラブ叙事詩」構想は、1900 年パリ万博ボスニア・ヘルツェゴヴィナ館の装飾を担当した経験に始まる。バルカン現地で南スラヴ諸民族の歴史と風俗に直接触れたミュシャは、「自分の本当の使命はスラヴ民族の歴史を描くことである」と確信した。1909 年、シカゴの実業家チャールズ・R・クレインがこの構想に共鳴し、20 点制作の財政支援を約束する。

1910 年、ミュシャは渡米生活を畳んで祖国へ帰国し、西ボヘミア・ズビロフ城のホールをアトリエとして借りた。6 メートル級の大画面に対応するため、ホールの高い天井と大開口を持つ部屋が不可欠だったためである。1912 年に最初の 3 点(#1, #2, #3)が完成、1919 年プラハ・クレメンチヌム宮殿で部分公開、1928 年に全 20 点を完成させプラハ市へ寄贈した。

所蔵移転史 — 4つの場所を経て

期間所蔵地状況
1928〜1939プラハ・各種公共施設寄贈直後は専用展示館建設が約束されたが実現せず
1939〜1963各地に疎開・倉庫保管第二次大戦・社会主義体制下で長期非公開
1963〜2011モラフスキー・クルムロフ城(南モラヴィア)地元自治体の誘致で 48 年間公開。地域経済の象徴
2012〜2016プラハ国立美術館ヴェレトゥルジュニ宮殿所有権訴訟を経てプラハ市が引き取り、市内で全 20 点常設公開
2017東京・国立新美術館「ミュシャ展」日本初の全 20 点同時公開展。約 65 万人を動員
2018〜現在プラハ周辺を巡回/新展示施設計画ミュシャ財団とプラハ市の所有権・展示権交渉が継続

所有権・展示権をめぐる訴訟

1928 年の寄贈時、ミュシャは「プラハ市が専用展示館を建設すること」を条件としたが、その建物は今日に至るまで実現していない。これを根拠にミュシャの孫ジョン・ムハ(ミュシャ財団代表)は 2010 年代に複数回にわたり所有権をめぐる訴訟を起こし、また展示条件・海外貸出権・モラフスキー・クルムロフへの恒久貸与の可否などをめぐってプラハ市・チェコ文化省と交渉を継続している。2026 年現在、20 点はプラハ市の所有のまま、新展示施設の建設場所をめぐる三者交渉が続く。

2017 年 国立新美術館「ミュシャ展」

2017 年 3〜6 月、東京・六本木の国立新美術館で「ミュシャ展」が開催された。スラブ叙事詩 20 点全点が日本に渡った世界初の機会で、来館者は 6 メートル級の大画面に直接対峙できた。会期中の動員は約 65 万人、混雑時は整理券方式で入場制限が行われた。同展は名古屋・札幌・福岡など他都市にも巡回せず、東京会場限定だった点も特徴的である。図録『ミュシャ展』(国立新美術館、2017)は現在も日本語ミュシャ研究の決定版として流通する。

関連項目

続けて日本のミュシャ展覧会史を読むと、堺市立美術館・国立新美術館を軸とする日本のミュシャ受容史と、現物を見るための導線が分かる。

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チェコの宝「スラブ叙事詩」-ミュシャの巨大連作と、売れる仕事と本当に描きたい絵。

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