固いはずの大理石が、布のように柔らかく流れる。
少女の指が、月桂樹の葉に変わっていく。
ジャン・ロレンツォ・ベルニーニ(Gian Lorenzo Bernini, 1598〜1680)は、17 世紀ローマの彫刻と建築を支配しました。
彼は バロックを「演劇化された絶対の瞬間」として完成させた人物です。
目次
ベルニーニとは
- 1598 年ナポリ生まれ、父も彫刻家
- 幼少から神童と呼ばれる
- 歴代教皇の寵を受けて、ローマ全体を舞台に活動
- ミケランジェロ以来の総合芸術家(彫刻・建築・舞台美術)
バロック彫刻の革新
ルネサンス彫刻が静止と理想を追求したのに対し、ベルニーニは動きと感情を選びます。
- 絶対の一瞬を彫る(変身、絶頂、苦悩、忘我)
- 視点を限定し、演劇的な「正面」を強調
- 大理石を布・髪・肌・植物に変える触感の再現
- 光と影を計算した周辺空間の演出
初期の代表作
「アポロンとダフネ」(1622〜25)
- 変身の瞬間を彫った驚異的群像
- ダフネの指から月桂樹の葉が生えはじめる
- ボルゲーゼ家枢機卿の依頼
- ローマ・ボルゲーゼ美術館
「プロセルピナの掠奪」(1621〜22)
- プルートの指がプロセルピナの腿に食い込む表現
- 大理石の柔らかさを錯覚させる金字塔
- ベルニーニ 23 歳の作
「ダビデ」(1623〜24)
- ミケランジェロのダビデと対照的、投石直前の動作
- ねじれる体、噛み締めた唇
- バロックのエネルギーが結晶
サン・ピエトロ大聖堂の仕事
ベルニーニは半世紀にわたり サン・ピエトロ大聖堂 の装飾を担いました。
「バルダッキーノ」(1624〜33)
- 主祭壇上のブロンズ製天蓋(高さ 29m)
- ねじれ柱とブドウのつる装飾
- 古代ローマのパンテオン青銅を転用
「聖ペテロの司教座」(1657〜66)
- 聖霊の鳩を中心に黄金の光が広がる
- ステンドグラス・大理石・ブロンズの総合演出
- バロック総合芸術の到達点
サン・ピエトロ広場の列柱(1656〜67)
- 4 列 284 本の楕円形柱廊
- 「教会の腕」が信徒を抱きしめる象徴
- 都市そのものを舞台に変える設計
「聖テレジアの法悦」(1647〜52)
ローマのサンタ・マリア・デッラ・ヴィットーリア聖堂、コルナーロ礼拝堂。
- 16 世紀スペインの神秘家、聖テレサの幻視を彫像化
- 天使の矢に貫かれた聖女の忘我
- 頭上から落ちるブロンズの光線
- 大理石・ブロンズ・隠し窓の自然光・絵画の総合演出
- 礼拝堂全体が劇場となる構成
バロック彫刻最高傑作と呼ばれる作品です。
噴水と都市彫刻
「四大河の噴水」(1651)
- ナヴォーナ広場の中央
- ナイル・ガンジス・ドナウ・ラプラタ川の擬人像
- 古代エジプトのオベリスクを支える設計
「トリトーネの噴水」(1642〜43)
- バルベリーニ広場の海神トリトン
- ホラ貝から噴き上げる水
建築家としてのベルニーニ
- サンタンドレア・アル・クイリナーレ聖堂(楕円形プラン)
- パラッツォ・キージ・オデスカルキ
- パリ・ルーヴル宮東棟設計(採用されず)
同時代との比較
- ライバル: フランチェスコ・ボッロミーニ(曲線の建築家)
- 絵画: カラヴァッジョ の劇的光と並走
- 後輩: アレッサンドロ・アルガルディが古典派寄りで対立
後世への影響
- 17〜18 世紀ヨーロッパのバロック彫刻のすべての出発点
- カノーヴァなど 18 世紀末の 新古典主義はベルニーニへの反動
- 19 世紀ロダンが再評価
- 現代の劇場演出や映像表現にも通じる「決定的瞬間」の概念
主な所蔵・所在先
- ボルゲーゼ美術館(ローマ):「アポロンとダフネ」「プロセルピナ」「ダビデ」
- サン・ピエトロ大聖堂(ヴァチカン):バルダッキーノ・司教座・列柱
- サンタ・マリア・デッラ・ヴィットーリア聖堂(ローマ):「聖テレジアの法悦」
- ナヴォーナ広場(ローマ):「四大河の噴水」
まとめ|ベルニーニを読む視点
- 大理石を肉・布・植物・光に変える技巧の極致
- 彫刻・建築・絵画・自然光を統合した「総合芸術」
- 絶対の一瞬を凍結した、バロック演劇美術の創始者

あなたの意見を聞かせてください