舞台袖で待つ踊り子。
朝の浴室で背を向ける女。
エドガー・ドガ(1834〜1917)は、19 世紀後半のパリの「見られた瞬間」を捉えた画家です。
印象派展に参加しながらも、印象派の典型からは外れた独自の道を歩みました。
目次
ドガの生涯
- 1834 年: パリの裕福な銀行家の家に生まれる
- 1855 年: パリ国立美術学校でアングルの弟子ラモートに学ぶ
- 1856〜59 年: イタリア滞在、ルネサンス絵画を模写
- 1865 年: サロンでデビュー、当初は歴史画を志す
- 1874〜86 年: 印象派展に参加(ほぼ全回)
- 1890 年代以降: 視力低下、パステル・彫刻にシフト
- 1917 年: パリで死去
印象派の中の異端
ドガは印象派展の主要メンバーでした。
しかし、典型的な印象派画家とは異なる特徴を持ちます。
- 戸外で描くモネに対し、ドガはアトリエで制作
- 風景より「人間の動き」を主題化
- 線の重要性を維持、アングル的な素描力
- 「私はリアリストだ」と自称
ドガの様式的特徴
切り取られた構図
- 登場人物が画面外にはみ出る大胆な切断
- 浮世絵の影響:俯瞰・斜めの視点
- 当時普及した写真の偶然性を絵画化
視点の自由
- 舞台を真上から見下ろす
- 柱や扉の向こうから覗き込む
- 「鍵穴から見たような」と評される視線
動きの瞬間
- ポーズではなく、動作の途中
- 足を結ぶ、髪を梳く、椅子に倒れ込む
- 形式美ではなく、瞬間の真実
主題群
バレエ・踊り子
ドガを代表するモチーフ。
- パリ・オペラ座の練習場・舞台袖・楽屋
- 1500 点を超える踊り子主題
- 「踊りの花形」「リハーサル」「14 歳の小さな踊り子」(彫刻)
- 華やかな舞台より、待機・休憩・疲労の瞬間
浴女
晩年の中心モチーフ。
- 身体を洗う・髪を梳く女性の連作
- 「浴室での女性たちの動作」(1870s〜1890s)
- 裸体を理想化せず、日常の身体として描く
- パステルによる柔らかい色面
競馬
- パリ郊外の競馬場での騎手・馬の動き
- 「競馬場の馬たち」(1866〜68)
- 近代化するパリのレジャー文化を記録
カフェ・洗濯女・帽子屋
技法の遍歴
初期:油彩と素描
- アングル仕込みの精密な素描
- アカデミックな歴史画から出発
中期:油彩・テンペラ・モノタイプ
- パステルと油彩の混合
- モノタイプ(一回刷り版画)の革新的使用
- 銅版画による習作も多数
晩年:パステル中心
- 視力低下に伴いパステルを多用
- 濃密な色彩の重ね塗り
- 水蒸気で固定する独自の技法
彫刻家としてのドガ
晩年、ドガは蝋でブロンズ彫刻を多数制作しました。
- 「14 歳の小さな踊り子」(1881)
- 本物のチュチュとリボンを着せた異色作
- 当初は嘲笑、後に近代彫刻の重要作とされる
- 死後、80 体ほどの蝋像がブロンズに鋳造される
主な所蔵先
- オルセー美術館(パリ)
- メトロポリタン美術館(ニューヨーク)
- シカゴ美術館
- ナショナル・ギャラリー(ロンドン)
- 大原美術館(倉敷)にも油彩作品
後世への影響
- 20 世紀写真家:構図感覚の参照点
- トゥールーズ=ロートレックのパリ夜景画
- 映画的視点の先駆者として再評価
- パステル画の歴史的復権
政治的・人格的側面
- 独身を貫いた孤高の人物像
- 晩年、ドレフュス事件で反ドレフュス派に与し、印象派仲間と決別
- 反ユダヤ主義的言動が記録される
- 作品の魅力と人物の問題は分けて論じる必要がある
まとめ|ドガを読む視点
- 印象派の中の異端、線と動きを重視
- バレエ・浴女・競馬で近代パリの瞬間を切り取る
- 構図・視点の革新が後の写真・映画につながる

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