古代ローマの彫像が、千年を経て蘇った。
そう言える瞬間が、15 世紀のフィレンツェにありました。
その立役者が ドナテッロ(Donatello, 1386 頃〜1466)です。
彼は ルネサンス美術の起点を彫刻の世界で切り拓いた巨匠でした。
目次
ドナテッロとは
- 本名: ドナート・ディ・ニッコロ・ディ・ベット・バルディ
- 1386 年頃フィレンツェ生まれ
- ブルネレスキの弟子・親友
- 80 年に近い長寿で、初期から盛期ルネサンスをまたぐ
彼の彫刻は、後の ミケランジェロ を含む全イタリア彫刻の出発点になります。
ゴシック彫刻からの離脱
当時の彫刻は、ゴシックの影響下にありました。
- 建築装飾としての彫刻
- 細長い体型と装飾的な衣文
- 正面からの観賞を前提とした浅い彫り
ドナテッロはこれを覆します。
- 独立して立つ「ラウンド・スカルプチャー」の確立
- 古代ローマ彫刻の再観察
- 解剖学に基づくリアルな人体
三つの代表作
「ダビデ」(ブロンズ、1440 年代)
- 古代以降ヨーロッパ初の等身大ヌード彫刻
- 少年の柔らかな身体、思索的な表情
- メディチ家パラッツォの中庭に置かれた
- 後の ミケランジェロ「ダビデ像」 へとつながる原点
「ガッタメラータ騎馬像」(1453)
- パドヴァに立つ、傭兵隊長の騎馬像
- 古代ローマ「マルクス・アウレリウス騎馬像」を範に取る
- 古代以降初の独立した大型ブロンズ騎馬像
- 馬と人物の重量感、堂々たる人物表現
「マグダラのマリア」(木彫、1453 〜55)
- 苦行で痩せ衰えた老マリアの木像
- 美の理想化を拒む、表現主義的な強度
- 晩年のドナテッロが到達した精神性
レリーフの革新
ドナテッロは浅浮き彫り(リリエーヴォ・スキアッチャート)の技法を確立します。
- 髪の毛 1 本ほどの薄さで深い空間を表現
- 線遠近法を取り入れた建築背景
- 「聖ジョルジョと竜」(オル・サン・ミケーレ、1417)
- サン・ロレンツォ聖堂の二つの説教壇
古代との対話
ドナテッロは ブルネレスキ とともにローマを訪れます。
- 古代彫刻と建築を実測
- 解剖学的構造の研究
- 身体のコントラポスト(軸足と遊び足の対比)の再発見
「古代の再生」は、まずドナテッロの工房から始まったといえます。
同時代の彫刻家との比較
| 彫刻家 | 特徴 |
|---|---|
| ロレンツォ・ギベルティ | 「天国の門」(フィレンツェ洗礼堂)の優美なゴシック的様式 |
| ヤコポ・デッラ・クエルチャ | シエナの力強い人体、ミケランジェロへの影響 |
| ドナテッロ | 古代再生・心理表現・技法革新の総合 |
後世への影響
主な所蔵先
- バルジェッロ国立美術館(フィレンツェ):ブロンズ「ダビデ」
- サンタンドニオ聖堂前広場(パドヴァ):「ガッタメラータ騎馬像」
- サンタ・マリア・デル・フィオーレ大聖堂付属博物館(フィレンツェ):「マグダラのマリア」
- オル・サン・ミケーレ(フィレンツェ):「聖ジョルジョ」
まとめ|ドナテッロを読む視点
- 千年ぶりに古代彫刻を蘇らせた革新者
- 独立彫刻・等身大ヌード・ブロンズ騎馬像の再生
- 晩年に到達した精神性が、ミケランジェロを準備
ルネサンスを理解する上で、絵画より先に彫刻のドナテッロを押さえると、革新の構造が見えてきます。

あなたの意見を聞かせてください