「速度の美によって、世界の壮麗さは豊かになった」。
1909 年 2 月 20 日、パリの『ル・フィガロ』紙第一面。
イタリア人詩人 フィリッポ・トンマーゾ・マリネッティの「未来派宣言(Manifesto del Futurismo)」が掲載されました。
古代遺産を抱えるイタリアで、過去の徹底的な拒絶を叫ぶ若者たち。
これが 未来派(Futurismo)の始まりです。
目次
未来派とは
- 1909〜1920 年代、イタリアで興った前衛芸術運動
- 絵画・彫刻・建築・文学・音楽・演劇・写真・料理にまで波及
- 「過去の博物館」イタリアからの脱出を志向
- 速度・機械・産業・戦争・暴力を肯定的に讃える
- 第一次大戦・ファシズムの台頭と複雑に絡む
マリネッティ「未来派宣言」(1909)の要点
- 「我々は危険を讃える」
- 「世界は新しい美によって豊かになった——速度の美」
- 「博物館・図書館・アカデミーを破壊せよ」
- 「戦争——世界の唯一の衛生学」
- 「女性蔑視」(後に内部から批判される)
「ボンネットの大蛇のような排気管をもつ自動車は、サモトラケのニケより美しい」(同宣言文)。
絵画の主要作家
ウンベルト・ボッチョーニ(1882-1916)
- 運動を絵画化する理論家・実践家
- 「立ち上がる街」(1910、MoMA):労働者・馬・建築の動的渦
- 「心の状態:別れ」三部作(1911)
- 第一次大戦に志願し落馬で戦死
ジャコモ・バッラ(1871-1958)
- 分割主義から出発、点描の延長で「速度」を表現
- 「鎖につながれた犬のダイナミズム」(1912、オルブライト=ノックス)
- 足とリードを多重露光のように描く
カルロ・カラ(1881-1966)
- 「無政府主義者ガッリの葬儀」(1911、MoMA)
- のち 形而上絵画 に転向、デ・キリコと並ぶ
ジーノ・セヴェリーニ(1883-1966)
- パリ在住、未来派とキュビスムの橋渡し役
- 「タバラン舞踏会の動的象形文字」(1912、MoMA)
ルイジ・ルッソロ(1885-1947)
- 「騒音芸術(Arte dei rumori)」宣言(1913)
- 「インストナトーリ(騒音発生器)」を発明、現代音楽の前史
彫刻と建築
- ボッチョーニ「空間における連続性の唯一の形態」(1913):歩く人間の運動を一体化したブロンズ。20 ユーロ硬貨の裏面意匠
- アントニオ・サンテリア「未来派建築宣言」(1914):高層立体都市のドローイング群(実作前に戦死)
キュビスムとの違い
| キュビスム | 未来派 | |
|---|---|---|
| 対象 | 静物・人物が中心 | 動く対象(自動車・群衆・自転車) |
| 視点 | 多視点の同時併置(空間) | 運動の連続位相(時間) |
| 色彩 | 抑制された褐色・灰色 | 原色・分割主義の鮮やかさ |
| 感性 | 分析的・冷静 | 劇的・宣言的 |
| 政治性 | 原則中立 | 明確に右派・好戦的 |
第一次大戦とその後
- 未来派の多くが戦争に志願
- ボッチョーニ・サンテリア戦死、運動の中核を失う
- 戦後は「第二未来派」(1919-44)として継続
- マリネッティはムッソリーニ支持、ファシズム文化に取り込まれる
- そのため戦後評価が複雑化
イタリア外への波及
- ロシア未来派:マヤコフスキー、フレーブニコフ、マレーヴィチ
- イギリス:ヴォーティシズム(ウィンダム・ルイス)
- ポルトガル:オルフィズム周辺
- 絵画外:F.T. マリネッティの音響詩、未来派ディナー、未来派演劇
後世への影響
- 映像表現:エティエンヌ=ジュール・マレー連続写真と相互影響
- デュシャン「階段を降りる裸体 No.2」(1912):未来派的運動分析の影響
- 戦後グラフィック・モーション・タイポグラフィ
- SF・サイバーパンク文化の機械礼讃
主な所蔵先
- マッティオーリ・コレクション・ブレラ美術館(ミラノ)
- ノヴェチェント美術館(ミラノ):未来派常設室
- MART トレント・ロヴェレート近代現代美術館
- ニューヨーク MoMA・グッゲンハイム
- 横浜美術館:日本にも一定の所蔵
まとめ|未来派を読む視点
- 20 世紀最初の宣言型・全体芸術運動
- 速度・機械・群衆を主題化した最初の絵画
- ファシズムとの近接ゆえ評価が割れるが、20 世紀視覚文化への寄与は大きい

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