森の中で揺れるブランコ。
覗き見る恋人、空に飛ぶサンダル。
これは ジャン=オノレ・フラゴナール「ぶらんこ」(1767)。
18 世紀フランス、ロココ美術を象徴する 1 枚です。
ロココは バロックの重厚さの後に登場し、軽やかさと官能をまといました。
目次
ロココとは何か
「ロココ」(rococo)は「ロカイユ(rocaille)」=庭園の岩や貝殻装飾に由来します。
- 1715 年ルイ 14 世没後、宮廷文化の中心がヴェルサイユからパリへ
- 貴族のサロン文化、私的空間の装飾
- 1720〜1770 年頃、フランスを中心にヨーロッパで流行
ロココの様式的特徴
- パステル色(ピンク、ブルー、ライトグリーン)
- S 字曲線・C 字曲線の装飾
- 非対称・流動的な構図
- 恋愛・遊戯・神話・牧歌の主題
- 軽い筆触、柔らかな筆跡
三人の中心画家
アントワーヌ・ヴァトー(1684〜1721)
- ロココの先駆者、若くして肺病で没
- 「雅宴画(フェット・ギャラント)」というジャンルを創設
- 「シテール島への巡礼」(1717、ルーヴル)
- 憂愁を含んだ優雅さが特徴
フランソワ・ブーシェ(1703〜1770)
- ポンパドゥール夫人(ルイ 15 世の愛妾)の寵愛
- 神話・寓意画と装飾画の名手
- 「ヴィーナスの誕生」「ディアナの水浴」
- ゴブラン織・セーヴル磁器の図案も担当
ジャン=オノレ・フラゴナール(1732〜1806)
- ブーシェの弟子、ロココ末期の代表者
- 奔放な筆触と私的な恋愛主題
- 「ぶらんこ」(1767、ウォレス・コレクション)
- 「恋愛の進展」連作(1771〜73、フリック・コレクション)
「ぶらんこ」を読み解く
フラゴナールの代表作「ぶらんこ」は、ロココの精神を凝縮します。
- 男爵の依頼で描かれた、私的・スキャンダラスな場面
- 司教にブランコを押させる夫人
- 下から覗き見る若い恋人
- 飛ぶサンダル、笑うクピド像
- 森の緑の柔らかな光
「軽さ」「いたずら」「秘め事」がロココの本質です。
ロココ建築と装飾
- パリのオテル(貴族邸)の私的サロン
- ホテル・ド・スービーズの「楕円の間」
- 金箔と鏡、白を基調にした漆喰装飾
- セーヴル磁器、マイセン磁器
- 家具:コモード、ベルジェール(一人掛けソファ)
ヨーロッパ各地のロココ
- ドイツ: ヴュルツブルク司教館(バルタザール・ノイマン)
- イタリア: ティエポロのフレスコ(ヴュルツブルクと協働)
- イギリス: ホーガースのコンヴァセーション・ピース
- ロシア: エカテリーナ宮殿の琥珀の間
ロココとバロックの違い
| バロック | ロココ | |
|---|---|---|
| 時期 | 1600〜1720 | 1720〜1770 |
| 場 | 教会・宮殿 | 貴族邸・サロン |
| 主題 | 宗教・神話・歴史 | 恋愛・遊戯・牧歌 |
| 色彩 | 濃厚・コントラスト | パステル・柔らか |
| 感情 | 劇的・宗教的法悦 | 軽快・官能・憂愁 |
ロココへの批判
- 啓蒙主義者ディドロの厳しい批判
- 「軽薄」「貴族的退廃」の象徴とされる
- フランス革命前夜の道徳的な反動
- ダヴィッドら 新古典主義へと振り子が振れる
後世の評価と影響
- 19 世紀末ゴンクール兄弟がロココを再評価
- 印象派の ルノワールが筆触で接続
- ベル・エポック(19c 末〜20c 初)の装飾美術
- シャネル・ディオールなど近代ファッションのインスピレーション源
主な所蔵先
- ルーヴル美術館(パリ):ヴァトー「シテール島」、ブーシェ「ヴィーナスの化粧」
- ウォレス・コレクション(ロンドン):フラゴナール「ぶらんこ」
- フリック・コレクション(ニューヨーク):「恋愛の進展」
- ヴェルサイユ宮殿:プチ・トリアノン
まとめ|ロココを読む視点
- バロックの後、貴族の私的空間で花開いた優雅と官能の様式
- ヴァトー・ブーシェ・フラゴナールの三人が中核
- 革命前夜の貴族文化が極限まで磨いた「軽さ」の美学
次に 新古典主義が登場する背景を理解する上で、ロココは必須の章です。

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