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ゲルハルト・リヒターと戦後絵画|フォトペインティングからアブストラクトまで

1961 年、ベルリンの壁が築かれる直前。

東ドイツ・ドレスデン芸術アカデミーで社会主義リアリズムの優等生だった一人の画家が、西側へ亡命します。

ゲルハルト・リヒター(Gerhard Richter, 1932-)。「写真のような絵画」と「絵画のような抽象」を行き来しながら、戦後絵画の可能性を 60 年以上にわたって更新し続けてきました。

2025 年現在、存命の画家として最高水準の市場評価を受けるドイツの巨匠です。

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生涯の概略

  • 1932 年、ドレスデン生まれ
  • 1951-56 年、ドレスデン芸術アカデミーで壁画を学ぶ
  • 1961 年、西側へ亡命。デュッセルドルフ芸術アカデミーへ入学
  • 1971-93 年、デュッセルドルフ芸術アカデミー教授
  • 1995 年、4 番目の妻ザビーネ・モーリッツと結婚
  • 2017 年、ケルンへ拠点を移し、現在も制作継続

1. キャピタリスト・リアリズム時代(1963-)

  • シグマー・ポルケ、コンラート・リューエックらと「ドイツ・ポップ」を志向
  • 1963 年、デュッセルドルフ家具店で展覧会「キャピタリスト・リアリズム」
  • 東の社会主義リアリズムへの皮肉を込めた呼称
  • 新聞写真・広告イメージを絵画に変換

2. フォトペインティング(Photo Painting)

  • 1962 年から本格化。新聞・家族写真・スナップを油彩で再現
  • 制作後にぼかし筆で表面を撫で、写真特有のブレを再現
  • 「絵画」と「写真の複製」の境界を問う
  • 主題:家族写真、ナチス時代の家族(《オンケル・ルディ》1965)、強制収容所、テロリスト

《8 月》《エマ(階段を降りる裸婦)》

  • 《エマ》(1966):妻エマの裸体写真を巨大絵画に
  • マルセル・デュシャン《階段を降りる裸婦》への返答
  • 「絵画は死んだ」というデュシャン宣言を絵画で受け止める

3. カラーチャート(1966-)

  • 染料見本のような色面を矩形に並べる作品
  • 1024 色をアトランダムに配置した《4900 の色》(2007)
  • ケルン大聖堂の南翼ステンドグラス(2007)にも応用
  • 偶然性と数学的構造の同居

4. グレー絵画・モノクロ抽象(1968-)

  • 「無色」のグレーを大画面に塗り重ねる
  • 意味を引き受けすぎない「中間状態」の探求
  • 「私は何も信じていない、信じることができない」という発言と通底

5. アブストラクト・ペインティング(1980-)

  • 巨大なスキージ(ゴムベラ)で絵具を引き伸ばす技法
  • 偶然と意図のせめぎあいで多層の表面を作る
  • サイズは数メートル超のものが多い
  • 《ストライプ》《雲》《シリーズ》多数
  • 市場最高価格帯の作品群(2015 年クリスティーズで《抽象画》が約 4630 万ドル)

歴史に関わる重要連作

《1977 年 10 月 18 日》(1988)

  • 赤軍派(RAF)メンバーの獄中死を 15 点の連作で描く
  • 新聞報道写真をぼかしたフォトペインティング
  • 戦後ドイツの「歴史をどう描くか」という問いに正面から応答
  • 所蔵:ニューヨーク近代美術館(MoMA)

《ビルケナウ》(2014)

  • アウシュヴィッツ=ビルケナウのゾンダーコマンド密写真を出発点
  • 表層を抽象に転じた 4 点組
  • 「歴史は絵画で表象できるか」を問い続けた到達点の一つ

創作論:アトラスとブック

  • 《アトラス》:60 年以上集めた写真・スケッチ・新聞切り抜きの巨大アーカイヴ
  • 800 枚超のパネル群、リヒター作品の温床
  • 絵画はこのアトラスから「選ばれて翻訳される」
  • 常設:ドレスデン国立美術館連合内アルベルティヌム、ベルリン新ナショナルギャラリー

抽象と具象の往還

系列 主題 表現
フォトペインティング 家族・歴史・風景 具象+ぼかし
カラーチャート 色そのもの 幾何学的配色
グレー絵画 中間性・無 無彩色の塗り重ね
アブストラクト 絵画の物質性 スキージで多層化

主要展示・所蔵

  • ケルン大聖堂南翼ステンドグラス(2007)
  • ベルリン新ナショナルギャラリー
  • テート・モダン(ロンドン)
  • ニューヨーク近代美術館(MoMA)
  • ポンピドゥー・センター(パリ)

批評史的位置

  • 戦後ドイツの歴史と向き合った数少ない大画家
  • 抽象 / 具象、絵画 / 写真の二項対立を解体
  • 同世代:ジグマー・ポルケ、ヨーゼフ・ボイス、アンゼルム・キーファー
  • 後世:ペーター・ドイグ、ルック・タイマンス、エリザベス・ペイトンに影響

まとめ|リヒターを読む視点

  • 東西ドイツの分断と再統合の歴史を絵画で受け止めた画家
  • 写真と絵画、抽象と具象を 60 年にわたり往復
  • 偶然・歴史・色彩を独自の方法で組織化
  • 戦後絵画が「死んでいない」ことを実作で証明し続けている

あわせて 戦後西洋現代美術の全体像 を読むと、リヒターの立ち位置が立体的になります。

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