「住宅は住むための機械である」。
1923 年の著書『建築をめざして』。
この一行が 20 世紀の都市と住居を変えました。
著者は ル・コルビュジエ(Le Corbusier, 1887〜1965)。
本名シャルル=エドゥアール・ジャンヌレ=グリ。
目次
ル・コルビュジエとは
- 1887 年、スイス・ラ・ショー=ド=フォン生まれ(時計産業の町)
- 地元美術学校でアール・ヌーヴォー装飾を学ぶ
- 1907-11 年:欧州大旅行(イスタンブール・アテネ・ローマ・ポンペイなど)
- パリでオーギュスト・ペレ事務所(鉄筋コンクリートの先駆)に学ぶ
- ベルリンでペーター・ベーレンス事務所(ミース・グロピウスと同僚)
- 1917 年パリ定住、1920 年「ル・コルビュジエ」のペンネーム使用開始
- 1965 年、コートダジュールで遊泳中に心臓発作で没
「近代建築の 5 原則」(1926)
- ピロティ:1 階を柱で持ち上げ、地表を解放
- 屋上庭園:屋根を平らにし庭園として再活用
- 自由な平面:耐力壁の代わりに柱で支え、間取り自由
- 横長連続窓:壁から解放され横一列に長く取れる
- 自由なファサード:構造から切り離した立面の自由
これらは鉄筋コンクリートの構造的革新を、生活空間の解放に結びつけた宣言でした。
主要作品
サヴォワ邸(1928-31、ポワッシー、世界遺産)
- 5 原則の完成形ともいわれる白い箱
- ピロティで持ち上げられ、屋上テラス、横長連続窓
- 車路を建物内に取り込み、玄関・スロープ・寝室と一体動線
- 戦時中ドイツ軍倉庫として劣化、戦後保存運動で奇跡的に救済
ユニテ・ダビタシオン(1947-52、マルセイユ)
- 337 戸の集合住宅、335m × 24m × 56m
- 戦後復興の住宅問題に応える「垂直の街」
- 商店街・幼稚園・屋上プール・劇場を内蔵
- モデュロール(人体寸法に基づく比例システム)の採用
- 世界遺産
ロンシャン礼拝堂(1950-55、世界遺産)
- 白い壁・うねる屋根・小さな光窓のカラフルなガラス
- 5 原則からの逸脱、感性的・彫塑的な空間
- 「機能主義者の宗教転向」と当時論争
- 20 世紀後半の表現主義的建築の出発点
ラ・トゥーレット修道院(1956-60、エヴ郊外、世界遺産)
- ドミニコ会修道院
- ピロティ・荒打ちコンクリート(ベトン・ブリュット)の極致
- ブルータリズム建築の出発点
- 音響デザインに作曲家ヤニス・クセナキス(当時所員)が関与
チャンディーガル都市計画(1951-65、インド、世界遺産)
- 独立後インド・パンジャブ州の新州都を設計
- ジャワハルラール・ネルー首相の依頼
- キャピトル・コンプレックス(議事堂・高等裁判所・州知事公邸)
- 「開いた手」のモニュメント:贈与と受領の象徴
- 巨大スケール・コンクリートのモニュメント性
国立西洋美術館(1955-59、東京・上野、世界遺産)
- 松方コレクションを収蔵する美術館として竣工
- ピロティ・19 世紀ホール・無限成長美術館の概念
- 弟子の前川國男・坂倉準三・吉阪隆正が現場担当
- 2016 年「ル・コルビュジエの建築作品」として世界遺産登録(17 件のうち日本唯一)
都市計画思想:「ヴォアザン計画」「輝く都市」
- 1925 年「ヴォアザン計画」:パリ中心部の歴史地区を高層ビル群で再開発する架空提案
- パリの保存派・モダン派双方から論争
- 1933 年「アテネ憲章」(CIAM 第 4 回会議):機能分離型都市計画の指針
- 戦後の世界各地の団地・ニュータウンに巨大な影響
批判と再評価
批判
- 20 世紀後半の郊外団地問題(パリ郊外、米プルーイット=アイゴー団地破壊 1972)
- ジェイン・ジェイコブズ『アメリカ大都市の生と死』(1961):スケールと匿名性への批判
- 1930 年代ヴィシー政府協力の疑念、近年の研究で再検討
再評価
- 都市理念ではなく具体作品(サヴォワ邸・ロンシャン)の質は今も最高評価
- 2016 年、世界 7 か国 17 作品が「ル・コルビュジエの建築作品」として世界遺産登録
- 素材・光・スケールの操作は現代建築の基礎言語
絵画・家具との並走
- 1918 年、画家アメデ・オザンファンと ピュリスム(純粋主義) 創始
- 静物画を機械の純粋形態として再構成
- シャルロット・ペリアンと家具設計:LC1〜LC7 シリーズ(カッシーナ社で現在も生産)
- 1925 年パリ装飾美術博覧会「エスプリ・ヌーヴォー館」
後世への影響
- 日本:前川國男、坂倉準三、吉阪隆正、丹下健三
- 米国:リチャード・マイヤー、フィリップ・ジョンソン
- ブラジル:オスカー・ニーマイヤー(ブラジリア計画)
- ブルータリズム:戦後英国・東欧公共建築
- バウハウス と並ぶモダニズム建築の二大震源
主な見学先
- サヴォワ邸(仏ポワッシー)
- ユニテ・ダビタシオン(仏マルセイユ)
- ロンシャン礼拝堂(仏オート=ソーヌ県)
- ラ・トゥーレット修道院(仏ローヌ県)
- 国立西洋美術館(東京・上野)
- チャンディーガル(インド・パンジャブ州)
- ル・コルビュジエ・センター(チューリヒ、最後の作品)
まとめ|ル・コルビュジエを読む視点
- 近代建築 5 原則・モデュロール・アテネ憲章で 20 世紀の住居と都市を再定義
- 機能主義 → 彫塑的表現へと自身も進化
- 批判は受けつつ、世界遺産 17 件の質と量は今も無類
あわせて バウハウス や 20 世紀前半の美術運動概観 を読むと、絵画・彫刻・建築のモダニズムが立体的に見えてきます。

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