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オーギュスト・ロダン– オーギュスト・ロダンの代表作と画風 –

オーギュスト・ロダンとは──近代彫刻の父

フランソワ=オーギュスト=ルネ・ロダン(François-Auguste-René Rodin, 1840〜1917)は、19 世紀末から 20 世紀初頭にかけてのフランスを代表する彫刻家。「考える人」「地獄の門」「カレーの市民」など、肉体の動きと内面の葛藤を生々しく刻み出した作品で知られ、ミケランジェロ以来停滞していた西洋彫刻を近代へと押し進めた立役者である。彼の彫刻は古典彫刻のような滑らかな完成度ではなく、粘土を指で押した痕跡や、未完成のまま残された塊を芸術として提示する点で、20 世紀彫刻全体の出発点となった。

基本データ

項目内容
名前フランソワ=オーギュスト=ルネ・ロダン(François-Auguste-René Rodin)
生没年1840 年 11 月 12 日〜1917 年 11 月 17 日
出身地パリ
主な活動地パリ・ムードン・ブリュッセル・イタリア
主な技法粘土塑造・ブロンズ鋳造大理石彫刻・素描
代表作《考える人》《地獄の門》《カレーの市民》《接吻》《青銅時代》《バルザック像》《歩く人》
関連カテゴリ近代(19 世紀)

年表

出来事
1840パリで官吏の子として生まれる
1854〜57装飾美術学校(プチット・エコール)で学ぶ。エコール・デ・ボザールに 3 度受験するも落第
1864生涯のパートナー、ローズ・ブーレと出会う
1875イタリア旅行、ミケランジェロから決定的影響を受ける
1877《青銅時代》発表、実物型取り疑惑が起こる
1880装飾美術館の門扉として《地獄の門》を国家から受注
1884〜95《カレーの市民》
1898《バルザック像》発表、文学者協会が受け取りを拒否
1900パリ万博で個展を開催、世界的名声を確立
1916作品とコレクションをフランス国家に寄贈、ロダン美術館設置決定
1917ムードンで没

主要トピック

  • 《青銅時代》論争: 1877 年発表の若い男性裸体像が、あまりに自然なため「実物を石膏型取りした」と疑われたエピソード。生身の身体感覚が当時いかに新鮮だったかを示す。委員会が制作工程を再検証し、最終的に疑惑は晴れた。
  • 《地獄の門》のライフワーク: 装飾美術館の正面扉として 1880 年に注文を受け、ダンテ『神曲』地獄篇を主題に 37 年間取り組み、未完のまま没。多くの代表作(考える人・接吻・三つの影)はこの大作の一部から派生した。
  • 「断片」の美学: 頭部や手足だけを切り出した断片彫刻を独立作として展示し、未完性をそのまま芸術として提示した。これは 20 世紀のアセンブラージュやインスタレーション芸術の遠い祖先となる発想である。
  • カミーユ・クローデル: 弟子・モデル・恋人として深い関係を持った彫刻家。後の女性彫刻家評価史に欠かせない存在となる。1990 年代以降、彼女の独立した芸術家としての評価が大きく進んだ。
  • ロダン美術館: 1916 年、自身のコレクションと作品をフランス国家に寄贈し、翌年パリ・ビロン館に「ロダン美術館」が開館することが決定した。現在もパリ 7 区の中心的観光地である。
  • 日本との関係: 高村光太郎が 1907 年にパリでロダンを訪ね、その後日本へ近代彫刻思想を持ち帰った。これが日本近代彫刻の出発点となる。
  • 世界各地の鋳造: 失蝋法による鋳造のため、《考える人》《カレーの市民》などは世界各地に複数のオリジナル鋳造ヴァージョンが存在する。

代表作とその見どころ

《考える人》(1880 年・初出は《地獄の門》上部)

世界で最も有名な彫刻のひとつ。元は《地獄の門》の中央上部に座るダンテ自身を表す像として構想されたが、独立作として何度もスケールを変えて鋳造された。組み合わされた腕と前傾姿勢は、人間の思考の物理的緊張をそのまま彫塑化している。パリ・ロダン美術館庭園、東京・国立西洋美術館前庭、京都国立博物館など世界各地で見ることができる。

《地獄の門》(1880〜1917 年、未完)

パリ・ロダン美術館(オルセー美術館前庭にもブロンズあり)。高さ 6 m を超える大扉に 200 体近い人物が浮かびあがる。ダンテ『神曲』とボードレール『悪の華』をモチーフに、人間存在の苦悩と欲望を統合的に造形する。当初は 1885 年完成予定だったが、ロダンは生涯にわたって構想を更新し続け、結局完成しないまま没した。最初のブロンズ鋳造は彼の死後の 1928 年に行われた。

《カレーの市民》(1884〜95 年)

カレー市・ロンドン国会議事堂前など世界 12 か所に設置された記念群像。百年戦争でカレー市民を救うため自ら命を差し出した 6 人の市民を、英雄ではなく恐怖に苛まれる「個」として表現した点が革新的だった。元の依頼主であるカレー市は、英雄的でない表現に強く反発し、設置を巡って長い対立があった。

《接吻》(1882〜89 年)

ダンテ『神曲』地獄篇の悲恋(パオロとフランチェスカ)を主題とする大理石像。オルセー美術館所蔵。柔らかい曲線と石の重さが拮抗し、官能と運命の交差を可視化する。同主題の派生作品として《永遠の春》《ヴィクトル・ユゴーの記念碑》などがある。

《バルザック像》(1898 年)

フランス文学者協会の依頼で制作された巨匠バルザックの記念像。マントに包まれた塊状の身体は、当時「岩のようだ」と酷評され受け取りを拒否された。後世、抽象彫刻の出発点として再評価される。フォークリフトのような筒状の塊は、文学者の精神的存在感を物質化する大胆な解釈であった。1939 年にようやくパリのモンパルナス交差点に設置された。

《歩く人》(1900 年代)

頭と腕を持たない、胴体と脚だけの男性像。古代彫刻の断片を意図的に再現したような造形だが、ロダンはこれを完成作として展示。20 世紀彫刻における「全体性からの解放」を象徴する作品。

技法・特徴

粘土塑造から鋳造・大理石へ

段階内容
粘土塑造ロダン本人が指で塑造、運動と感情を直接刻む
石膏型原型から複数の石膏ヴァージョンを取り、構図を試行
ブロンズ鋳造失蝋法で鋳造工房に外注、複数の鋳造ヴァージョンが存在
大理石彫刻専門職人(ブシュロン、ブシャールら)に下絵指示
分業ロダンは構想と仕上げを担当、量産は工房システムで対応

表面の触覚性

滑らかに磨き上げる古典彫刻と異なり、粘土の指跡や工具痕をブロンズ表面に残し、光が乱反射する触覚的表皮を作った。これは絵画の印象派に対応する「彫刻の印象主義」と評される。表面が一定の方向に光を返さず、見る角度によって異なる印象を与える効果が、彫刻の動的な鑑賞経験を生み出した。

断片と未完の美学

《歩く人》《大きな手》のように、首・腕のない断片像を完成作として発表。これは古代彫刻の断片を理想化した 19 世紀の博物学趣味に呼応しつつ、近代彫刻が「全体性」から解放される契機となった。後のブランクーシ、ジャコメッティ、ヘンリー・ムーアらに受け継がれる「彫刻の素材化」の出発点である。

素描と水彩

晩年のロダンは、モデルの動きを瞬時に捉えた素描と水彩を多数残した。視線を画面に向けず、モデルだけを見ながら描くという独特の方法によって、肉体の躍動感を最も純粋な線で記録した。これらは現代のドローイング芸術の先駆例として高く評価されている。

影響・後世への波及

  • 20 世紀彫刻: ブランクーシはロダンの工房に短期間在籍した後、純粋形態の探究へ向かった。マイヨール、ブールデルら「3 大近代彫刻家」もロダン世代の継承者。
  • 女性彫刻家: カミーユ・クローデルの再評価は、ロダンとの関係史と並走して進められている。1988 年のフランス映画『カミーユ・クローデル』はその国際的再評価の契機となった。
  • 現代: アルベルト・ジャコメッティ、ヘンリー・ムーア、ルイーズ・ブルジョワらは、人体と空間の関係においてロダンの遺産を更新し続けた。
  • 美術館: パリ・ロダン美術館、ムードン・ロダン美術館、フィラデルフィア・ロダン美術館、東京・国立西洋美術館前庭の屋外展示など、世界各地でその作品に触れることができる。
  • 日本近代彫刻: 高村光太郎、荻原守衛らがロダンに学び、日本の近代彫刻の方向性を決定づけた。荻原守衛の《女》(1910)はロダンの肉体表現を消化した日本最初期の傑作とされる。

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続けて ロダンと近代彫刻の誕生|「考える人」を生んだ巨匠の世界 を読むと、《地獄の門》のライフワーク化、断片彫刻の哲学、カミーユ・クローデルとの関係を作品ごとに具体的に追える。日本近代彫刻への影響、世界各地のロダン美術館の歴史までを体系的に紹介している。