1980 年代のニューヨーク、ロウアー・イースト・サイド。
地下鉄や倉庫の壁に、こんな署名が刻まれていました。
SAMO© ——「Same Old Shit(いつもの戯言)」の略。
その若きグラフィティ・アーティストは、わずか数年で美術館の壁を飾り、27 歳で没します。
名は ジャン=ミシェル・バスキア(Jean-Michel Basquiat, 1960〜1988)。
目次
バスキアとは
- 1960 年、NY ブルックリン生まれ
- 父:ハイチ出身の会計士/母:プエルトリコ系アメリカ人グラフィック・デザイナー
- 幼少期から英語・フランス語・スペイン語を話す
- 7 歳のとき交通事故で入院、母から『グレイの解剖学』を贈られる(後の作品に影響)
- 17 歳で家出、SAMO 活動開始
- 1988 年 8 月、ヘロイン過剰摂取で死去(27 クラブ)
SAMO 時代(1977-79)
- 友人アル・ディアスと結成
- 地下鉄・SoHo・倉庫の壁にスプレーで詩的フレーズを書く
- 「SAMO© AS AN END TO MINDWASH RELIGION」など反消費・反宗教メッセージ
- 1979 年、決裂後「SAMO IS DEAD」と宣言し打ち切り
- 『Village Voice』取材で正体公開、アート・ワールドへの入り口に
1980-82 年:絵画への移行
- 1980 年「タイムズ・スクエア・ショー」(コラボグループ展)に参加
- 1981 年、ルネ・リカール論文「光輝く子ども(Radiant Child)」が彼を有名に
- 1981 年、ガラス絵画「同時代の英雄」シリーズ
- 1982 年、22 歳でドクメンタ 7(カッセル)出品、史上最年少
- 同年、ニューヨーク・モドナ画廊で初個展、即完売
絵画的特徴
言葉と図像の組み合わせ
- 頭蓋骨・王冠・骸骨の繰り返しモチーフ
- 解剖学図・ボクサー・サクソフォン奏者・歴史人物
- テキスト:英語・スペイン語・断片的フレーズ・線で消された語
- 「消した言葉ほど人は読みたがる」(バスキアの発言)
主題
- アフリカ系アメリカ人・ハイチ・ヒップホップの英雄
- 音楽家:チャーリー・パーカー、マイルス・デイヴィス、ジミ・ヘンドリックス
- ボクサー:シュガー・レイ・ロビンソン、ジャック・ジョンソン、モハメド・アリ
- 奴隷制度・人種主義の歴史
- 消費社会・商標・通貨
素材・技法
- キャンバスだけでなくドア・冷蔵庫・タイヤなど廃材
- アクリル・オイルスティック・スプレー・マーカー
- コラージュ・ゼロックス複写の貼り付け
- 「未完成」を意図的に残す
ウォーホルとの友情
- 1982 年、ブルーノ・ビショフバーガー画廊で紹介され知遇
- 1983-85 年、コラボレーション絵画約 200 点
- ウォーホルが下絵を描き、バスキアが上書きするスタイル
- 1985 年合作展は批評家に酷評される
- その後二人は疎遠に、1987 年ウォーホル急逝で再会の機会を失う
- 2023-24 年「Basquiat × Warhol Painting Four Hands」展(ルイ・ヴィトン財団)で再評価
主要作品
| 作品 | 年 | 備考 |
|---|---|---|
| 無題(頭蓋骨) | 1981 | ブロード美術館、ロサンゼルス |
| ホレ・サンゴール/豪華な逆立ち | 1982 | ロサンゼルス・カウンティ美術館 |
| 無題(悪魔) | 1982 | 2017 年サザビーズで $1.105 億、米国アーティスト最高額 |
| ホリウッド・アフリカン人 | 1983 | ホイットニー美術館 |
| リフィングス(皮を剥がす) | 1983 | ホイットニー |
| 河に浮かぶ脱獄王 | 1983 | カナダ国立美術館 |
| 大理石・冬 | 1985 | ニューヨーク・ホイットニー |
1982 年の頭蓋骨作品
- 2017 年、前澤友作(ZOZO 創業者)が 1 億 1050 万ドルで落札
- 米国作家として史上最高額、当時オークション最高額の 1 つ
- 千葉現代産業科学館 → 千葉市美術館で日本初公開(2018-19)
- のちに前澤コレクションは複数オークションを通じ流動
1985 年以降
- 1985 年『ニューヨーク・タイムズ・マガジン』表紙:黒人アーティスト初
- 1986 年、コートジボワール・アビジャンで個展
- ヘロイン依存症が悪化、ハワイで一時療養
- 1988 年 8 月 12 日、NY のスタジオで没。葬儀はクィーンズの墓地
論争点
- 「グラフィティ・アーティスト」という肩書の正当性
- 1980 年代美術市場のスター化と若手アーティストの精神
- 真贋鑑定問題:本人没後の制作年代偽装事件複数
- 2023 年、フロリダ州オーランド美術館にて 25 点偽作の FBI 捜索事件
後世への影響
- カウズ、村上隆、奈良美智ら現代スターアーティストへの直接影響
- ヒップホップ × ヴィジュアル・アートの最大の交差点
- ジュリアン・シュナーベルら同世代ニュー・ペインティング
- 2010 年伝記映画「バスキアのすべて」(タムラ・デイヴィス監督)
- 2024 年、東京・森アーツセンターギャラリー大回顧展
主な所蔵先
- ブロード美術館(ロサンゼルス):13 点、世界最大コレクション
- ホイットニー美術館(NY)
- ルイ・ヴィトン財団(パリ)
- マグレブ美術館(マイアミ)
- 森美術館:2024 年大回顧展ベース
まとめ|バスキアを読む視点
- SAMO というグラフィティから世界最高額絵画まで、わずか 10 年
- 言葉・図像・人種・音楽・消費が層をなす絵画
- 1980 年代の NY とポストモダンを象徴するアイコン、27 歳の早世
あわせて ウォーホルとポップアート革命 や 戦後西洋現代美術の全体像 を読むと、80 年代 NY アート・シーンが立ち上がります。

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