床に広げた巨大なカンバスの上を、画家が歩き回りながら絵具をしたたらせる。
そんな前代未聞の制作風景で世界を驚かせたのが、ジャクソン・ポロック(1912〜1956)です。
本人を中心とした抽象表現主義運動は、戦後アメリカ美術の起点となり、世界の前衛の中心をパリからニューヨークへ移しました。
目次
ポロックの生涯
- 1912年: ワイオミング州コーディに生まれる
- 1930年: ニューヨークに移り、リアリスト画家トーマス・ハート・ベントンに師事
- 1947年〜: ドリッピング技法を本格化
- 1949年: 『LIFE』誌で「アメリカ最大の画家か?」と特集
- 1956年: 自動車事故により44歳で没
抽象表現主義とは何か
1940年代後半のニューヨークで台頭した、戦後最初の本格的な絵画運動です。
- 大画面、強い感情表現、即興性が特徴
- ヨーロッパのシュルレアリスムから「自動筆記」を継承
- カラーフィールド派(ロスコ、ニューマン)とアクション派(ポロック、デ・クーニング)に分かれる
ドリッピング技法の発見
ポロックの代名詞となるドリッピング(滴らせる技法)は、1947年頃から本格化します。
- カンバスをイーゼルではなく床に広げる
- 缶や棒、注射器を使って絵具を画面にしたたらせる
- 歩きながら全方位から制作するため、画面に上下が消える
「絵の中を歩き回るような感覚」とポロック自身が語った制作姿勢です。
「アクション・ペインティング」の概念
1952年、批評家ハロルド・ローゼンバーグが論文「アメリカのアクション画家」を発表します。
- 絵画は完成品ではなく、制作の身体的行為そのものと位置づけ
- カンバスは「描く対象」ではなく「行為が起こる舞台」
- このとき、ポロックの実践に強力な理論的後ろ盾ができた
代表作の整理
ナンバー1A、1948
初期ドリッピングの代表作。MoMA所蔵。
- 黒・白・茶・銀の絵具が複雑に交差
- 画面の隅々まで均等に密度がある「オールオーバー」構図
秋のリズム(ナンバー30)、1950
メトロポリタン美術館所蔵の傑作。
- 黒い線と白の絵具が力強く絡み合う
- 音楽的なリズムを画面全体に展開
ナンバー31、1950
大画面の代表作のひとつ。
- 266 × 526 cmの巨大さ
- 身体スケールを超えた、空間そのものを覆うような絵画
「オールオーバー」と西洋絵画の更新
従来の絵画には、必ず主役と背景がありました。
- ポロックは画面全体に均等な密度を分散させる
- 主役のいない、ただ描画行為が広がる絵画
- ルネサンス以降の遠近法と中心構図の伝統を解消
ニューヨーク派とアメリカの自意識
- 戦後、ヨーロッパ前衛の亡命者がニューヨークに集中
- ペギー・グッゲンハイムらコレクター・批評家のサポート
- 抽象表現主義を「アメリカの絵画」として国家戦略的に発信
同時代と後世への影響
まとめ|ポロックを読む視点
- ドリッピングが、絵画を完成品から行為のドキュメントへ変えた
- オールオーバー構図が、西洋絵画の中心主義を解体した
- 戦後アメリカ美術が世界の中心となる、その第一歩
戦後西洋現代美術を学ぶ際の、最も重要な出発点の一人がポロックです。

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