1925 年、パリ。
「現代装飾美術・産業美術国際博覧会」(Exposition Internationale des Arts Décoratifs et Industriels Modernes)。
この長い名前を縮めた「アール・デコ」(Art Déco)が、1920 年代の世界デザインを塗り替えました。
幾何学・直線・豪華素材・モダンスピード感。
建築から香水瓶まで、すべてを刷新した最初のグローバル・スタイルです。
目次
アール・デコとは
- 時期:1910 年代後半〜1940 年代初頭
- 名称:1925 年パリ万博から「Art Déco」と略称化(1960 年代に確立)
- 特徴:幾何学・対称性・豪華素材・スピード感・古代モチーフ
- 領域:建築・家具・宝飾・ファッション・グラフィック・自動車
- 地理:パリ→ニューヨーク→世界(上海・ムンバイ・東京)
アール・ヌーヴォーとの違い
| 観点 | アール・ヌーヴォー | アール・デコ |
|---|---|---|
| 時期 | 1890-1910 | 1920-1940 |
| 線 | 有機的・曲線 | 幾何学的・直線 |
| モチーフ | 植物・女性 | 機械・古代 |
| 素材 | 鉄・ガラス | クロム・象牙・ラッカー |
| 象徴作家 | ミュシャ・ガレ | カッサンドル・ラリック |
1925 年パリ万博と起源
- 正式名「Exposition Internationale des Arts Décoratifs」
- 15 か国・1,600 万人来場
- パビリオン:エミール=ジャック・リュールマン「コレクター館」
- 「現代装飾」を国家的に発信
- 米国は産業デザイン後発のため不参加、後にニューヨークで独自展開
代表的な作家・デザイナー
家具・室内装飾
- エミール=ジャック・リュールマン(仏、家具のキング)
- ジャン・デュナン(仏、ラッカー工芸)
- アイリーン・グレイ(愛、家具・建築)
ガラス・宝飾
- ルネ・ラリック(仏、ガラス・香水瓶)
- カルティエ(仏、宝飾の幾何学ライン)
ポスター・グラフィック
- カッサンドル(A.M. Cassandre、仏):「ノルマンディー号」「デュボネ」
- ポール・コラン(仏):ジョセフィン・ベイカー
絵画・彫刻
- タマラ・ド・レンピッカ(ポーランド/仏):硬質なポートレート
- ポール・マンシップ(米):プロメテウス像(ロックフェラー・センター)
建築
- ウィリアム・ヴァン・アレン:クライスラー・ビル(NY、1930)
- シュリーヴ・ラム・ハーモン:エンパイア・ステート・ビル(NY、1931)
主要なアール・デコ建築
| 建物 | 都市 | 年 | 特徴 |
|---|---|---|---|
| クライスラー・ビル | ニューヨーク | 1930 | 頂部のクロム・スパイア |
| エンパイア・ステート・ビル | ニューヨーク | 1931 | 当時世界最高(443m) |
| ロックフェラー・センター | ニューヨーク | 1939 | 都市複合の金字塔 |
| ホテル・マーティニーク | マイアミ | 1934 | パステル・サウスビーチ様式 |
| サヴォイ・ホテル | ロンドン | 1929 改装 | 英国アール・デコ |
| パレ・ド・トーキョー | パリ | 1937 | 1937 年万博のために建設 |
| マリーン・ドライブ | ムンバイ | 1930s | 世界最大のアール・デコ建築群 |
| 築地本願寺 | 東京 | 1934 | 伊東忠太、和洋折衷 |
モダニズム・デザインとの関係
- 同時代の バウハウス(独)はより禁欲的・機能主義
- アール・デコ=装飾あり、バウハウス=装飾排除
- 両者は「機械時代の美」を共有
- ル・コルビュジエは装飾批判で「装飾は犯罪」(後の発言)
- 戦後はモダニズムが主流化、アール・デコは過去様式に
アール・デコ的モチーフ
- 太陽光線・扇形(サンバースト)
- ジグザグ・シェブロン
- 古代エジプト(1922 年ツタンカーメン墓発掘の影響)
- マヤ・アステカの段状建築
- 女性の流線形シルエット
- 機械・スピード(自動車・飛行機・船)
世界各地のアール・デコ
- パリ:誕生の地、シャンゼリゼ周辺
- ニューヨーク:摩天楼の様式
- マイアミ:サウスビーチのパステルカラー(1930s 残存数世界 1 位)
- 上海:外灘(バンド)の和平飯店
- ムンバイ:マリーン・ドライブの 200 棟超
- ナポレオン墓所、ハバナ、ブエノスアイレス、ジャカルタにも残存
日本のアール・デコ
- 東京都庭園美術館(旧朝香宮邸、1933、アンリ・ラパン内装)
- 築地本願寺(伊東忠太、1934)
- 横浜開港記念会館・神戸海岸通り建築群
- 家具・蒔絵・着物にも応用
アール・デコと映画・ポスター
- 1932「グランドホテル」MGM、室内装飾
- 1936「モダン・タイムス」チャップリン、機械文明批判
- カッサンドル「ノルマンディー号」(1935)
- ポール・コラン「ベイカー」(1925)
戦後の再評価
- 1966 年パリ装飾美術館「アール・デコ 1925」展で再注目
- 1970 年代に保存運動:マイアミ「アール・デコ歴史地区」(1979)
- 2003-13 ムンバイのアール・デコ建築群保存運動
- 2018 ユネスコ世界遺産登録(ムンバイのアール・デコ・ヴィクトリア朝ゴシック建築群)
まとめ|アール・デコを読む視点
- 1925 年パリ万博で確立した最初のグローバル・スタイル
- 幾何学+豪華素材+古代モチーフが特徴
- 建築・家具・宝飾・グラフィックを横断した総合芸術
- マイアミ・ムンバイ・上海など世界各地に建築遺産が残る
続けて アール・ヌーヴォーの装飾世界 や バウハウスのデザイン革命 を読むと、20 世紀デザイン史の流れが立体的に見えてきます。

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