植物の蔓のように曲がる鉄の手すり、女性の長い髪が画面を流れるポスター、夕日色のガラスランプ。
1890 年代から 1910 年代初頭にかけて、ヨーロッパは「アール・ヌーヴォー(Art Nouveau)」に染まりました。
絵画・建築・工芸・ポスター・家具・宝飾までを貫く、19 世紀末の総合芸術運動です。
目次
アール・ヌーヴォーとは
- 1890 年代〜1910 年代初頭
- 主な拠点:パリ・ブリュッセル・ナンシー・ウィーン・グラスゴー・バルセロナ
- 意味:「新しい芸術」(フランス語)
- パリ万博(1900)で頂点
- 第一次大戦前夜、アール・デコへとバトンを渡す
運動の核心理念
- 過去の様式(古典・ゴシック)の引用ではなく「新しい様式」をつくる
- 自然(植物・昆虫・水)に根ざした曲線
- 大量生産時代における「手仕事」の擁護
- 絵画・建築・家具・装飾の分け隔てを越える「総合芸術」
- 女性的・有機的・流動的な造形
各国・各都市の展開
| 地域・呼称 | 主な代表者 |
|---|---|
| フランス(アール・ヌーヴォー、ナンシー派) | エミール・ガレ、エクトール・ギマール、ルネ・ラリック、アルフォンス・ミュシャ |
| ベルギー | ヴィクトル・オルタ、アンリ・ヴァン・デ・ヴェルデ |
| イギリス(モダン・スタイル) | チャールズ・レニー・マッキントッシュ、オーブリー・ビアズリー |
| オーストリア(ゼツェッシオン/ユーゲントシュティル) | グスタフ・クリムト、オットー・ヴァーグナー、ヨーゼフ・ホフマン |
| スペイン(モデルニスモ) | アントニ・ガウディ、ジュゼップ・プイ・イ・カダファルク |
| ドイツ(ユーゲントシュティル) | ペーター・ベーレンス、ヘルマン・オブリスト |
| イタリア(リバティ・スタイル) | ジュゼッペ・ソンマルーガ |
主要分野ごとの代表
建築
- ヴィクトル・オルタ「タッセル邸」(1893、ブリュッセル):曲線の階段
- エクトール・ギマール:パリ・メトロ駅入口の鋳鉄装飾
- アントニ・ガウディ:「サグラダ・ファミリア」「カサ・ミラ」(バルセロナ)
- マッキントッシュ:グラスゴー美術学校
ガラス・工芸
- エミール・ガレ:植物文様の被せガラス(ナンシー派)
- ドーム兄弟:ナンシーの装飾ガラス
- ティファニー(米):ステンドグラス・ランプ
- ルネ・ラリック:宝飾とガラス工芸
絵画・ポスター
- アルフォンス・ミュシャ:「ジスモンダ」など演劇ポスター
- グスタフ・クリムト:「接吻」「ユディト」、金箔と装飾文様
- ビアズリー:『サロメ』挿絵の白黒コントラスト
家具・室内
- ホフマン、モーザーらウィーン工房(1903 設立)
- ガレ、マジョレル:ナンシー派の家具
- マッキントッシュ:直線的・幾何学的なグラスゴー・スタイル
同時代の影響源
パリ万博 1900:頂点
- 万博パビリオンや出品工芸の主流様式に
- ギマールのメトロ入口がパリ市民の日常に
- ラリック、ガレ、ティファニーがそれぞれ世界的名声
- 同時に「過剰装飾」という批判も湧き起こる
運動の終焉
- 大量生産時代との両立困難(手仕事ゆえに高価)
- 装飾過剰への反動(ロース「装飾と犯罪」、1908)
- 第一次大戦による断絶
- 戦後は アール・デコ(直線・幾何)が主流に
後世への影響
- バウハウスの総合芸術理念に間接的継承
- 北欧モダニズム家具、Mid-Century Modern
- 1960 年代サイケデリック・アート(ピーター・マックスらのポスター)
- 2010 年代以降の「曲線回帰」インテリア・建築デザイン
主な見学先
- オルタ美術館(ブリュッセル):オルタ自邸が世界遺産
- ナンシー派美術館(ナンシー):ガレ、ドームのガラスを集約
- サグラダ・ファミリアおよびガウディ建築群(バルセロナ、世界遺産)
- ベルヴェデーレ宮殿(ウィーン):クリムト「接吻」
- パリのメトロ各駅入口:ギマールの鋳鉄装飾
- オルセー美術館:4 階のアール・ヌーヴォー家具・装飾コーナー
まとめ|アール・ヌーヴォーを読む視点
- 絵画と建築と工芸を一つに束ねた、世紀末ヨーロッパの総合芸術運動
- 自然の曲線・ジャポニスム・手仕事の三つを核とする
- 第一次大戦で挫折するが、20 世紀デザインの土台を残した

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