パリの ルーヴル美術館(Musée du Louvre)の新館長 クリストフ・レリボー(Christophe Leribault)氏が、同美術館の入場料収入のうち現代アート購入に充当している割合を、現行の 20%から12%へ削減 する案を提案したことが、海外アートメディア artnet news の報道で明らかになった。差額の8%分は、築200年超の歴史的建造物としての美術館本体の老朽化対策・修繕費に振り向けられる見通しだ。
ルーヴルでは、入場料収入の一定割合を所蔵品購入に充てるルールが長年運用されてきた。現代アート購入枠20%は2010年代に強化されたもので、伝統的に古典・近代美術を中心に収集してきた同館が、21世紀以降の 現代美術 動向にも積極的に対応する姿勢を示すものだった。レリボー氏の今回の提案は、その方針の一部見直しを意味する。
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レリボー氏が前面に出す「建物の危機」
レリボー氏は2026年初頭にルーヴル館長に就任した美術史家で、これまでパリ・プティ・パレ館長などを歴任してきた人物。就任直後から、ルーヴル本体の建物老朽化、収蔵庫の容量逼迫、来館者の混雑緩和といった構造的課題に強い問題意識を示してきた。
関係者の説明によれば、本体建物の屋根・外壁・空調設備の老朽化は深刻で、近年は一部展示室の温湿度管理が困難になる事態も発生していた。さらに、年間800万人以上が訪れる過密状況は、収蔵品の保存環境にも悪影響を及ぼしているという。レリボー氏は「現代アートの購入を完全に止めるわけではない。だが、建物そのものを守らねば、未来の収蔵品を保存する場所すら失われる」と説明したと伝えられる。
現代美術関係者からは反発
一方、現代アートのギャラリスト、キュレーター、批評家からは反発の声も上がっている。あるパリのギャラリストは「ルーヴルが現代美術への投資を縮小すれば、フランス国内の現代アートマーケット全体に冷水を浴びせることになる」と懸念を表明した。
パリは アートの中心地 として、ポンピドゥー・センター、オルセー美術館、パレ・ド・トーキョー、ピノー・コレクションなど複数の主要施設が現代美術と古典・近代美術を分業的にカバーしてきた。ルーヴルの現代アート投資縮小は、こうした分業の中で同館の役割を再定義する動きとも読める。
背景にある収蔵建物の構造課題
ルーヴルの建物自体は、もともと12世紀末に要塞として築かれ、フランソワ1世の時代に王宮となり、フランス革命後の1793年に美術館として一般公開された歴史を持つ。20世紀末には I.M.ペイ設計の ガラスのピラミッド が中央広場に追加されたが、本体の歴史的躯体は依然として19世紀の改修以来の構造を引き継いでいる。
近年、欧米の主要美術館では収蔵品取得予算と建物維持費のバランスが議論されており、メトロポリタン美術館、テート、大英博物館などでも同様の予算配分の見直しが進められている。本件は、フランス文化省、国立美術館連合(RMN)、国会のルーヴル監督委員会での議論を経て、2026年中に正式決定される見込み。
日本のアートシーンへの示唆
日本の主要美術館でも、収蔵品購入予算は限られた中で、現代美術と古典・近代美術の比重をどう配分するかが恒常的な課題となっている。東京国立博物館 や ルーヴル美術館 のような国立基幹館は、所蔵品保存と現代美術受容の両立というジレンマを共有しており、ルーヴルの今回の判断は国際的な議論を呼ぶことになりそうだ。
新館長レリボーの来歴と方針
クリストフ・レリボーは1965年生まれ、パリ・ソルボンヌ大学で美術史を修めた後、オルセー美術館の絵画部門学芸員として19世紀フランス絵画研究で実績を積んだ人物。ウジェーヌ・ドラクロワ 研究の権威としても知られ、2013年にはドラクロワ美術館館長に就任、その後パリ市営美術館連合プティ・パレ館長を経て、2026年初頭にルーヴル館長に着任した。古典・近代美術の専門家であることが、今回の現代アート購入予算削減提案の背景にあると見る関係者もいる。ただしレリボー氏自身は「私は現代美術の敵ではない。ただ建物が崩れていく中で20%の予算を維持するのは現実的でない」と弁明している。
ピラミッド広場の混雑問題と新ゲート計画
ルーヴルが直面するもうひとつの課題は、I.M.ペイ設計のガラスのピラミッドを中心とする中央広場の慢性的な混雑。年間来館者数は新型コロナ前のピーク時で約1,000万人に達し、ピラミッド入口の入場待ち列が常態化していた。レリボー氏はこれに対し、ピラミッド以外の副ゲートを増設し、エリア別の入場予約システムを強化する案も並行して進めている。建物修繕費の増額は、こうした来館動線改革の財源としても位置づけられている。世界の主要美術館の運営モデルを変えうる動きとして、ルーヴルの今回の改革は museum-met や museum-british-museum をはじめとする国際的な美術館経営の議論の俎上にも上がりそうだ。
あわせて 美術史の体系的解説 や フランス美術の歩み も参照すると、ルーヴル収集方針の歴史的位置づけが見えてくる。
出典: artnet news
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