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ジャスパー・ジョーンズ– ジャスパー・ジョーンズの代表作と画風 –

ジャスパー・ジョーンズとは

ジャスパー・ジョーンズ(Jasper Johns、1930-)は、アメリカ・ジョージア州出身の戦後最重要画家のひとりである。星条旗、標的、数字、アルファベット、地図——子供でも知っている既知の記号をそのままカンバスに描き、抽象表現主義の「自己表現としての絵画」から、現実世界の記号と物の地位を主題化する絵画への転換を担った。ロバート・ラウシェンバーグと並んで「ネオ・ダダ」と呼ばれる世代の中心であり、その後のポップアートコンセプチュアル・アートの起点となる作家である。

ジョーンズは「あらかじめデザインされた、誰でも知っている対象」を選ぶ。それは絵を「描く前から完成している」ような状態を作り出し、画家の身振りと記号の同居を観察可能にする。エンコースティック(蜜蝋テンペラ)という古代以来の技法を採用したことで、近代絵画の即興的なジェスチャーと、古典絵画の遅い積層が一つの画面に並存する独特の絵肌が生まれた。本記事は、彼の生涯・代表シリーズ・技法・後世への影響を整理する hub である。

主要トピック

1. オーガスタからニューヨーク

1930 年、ジョージア州オーガスタ生まれ。サウスカロライナ州で祖父母に育てられ、 1949 年にサウスカロライナ大学で美術を学んだ。1953 年に朝鮮戦争に従軍し、 1954 年にニューヨークへ移住。同年、ロバート・ラウシェンバーグと出会い、 1955-1961 年にかけて隣接するスタジオで暮らしながら、戦後アメリカ美術の方向を定める対話を交わし続けた。

2. 旗・標的・数字(1954-58)

1954 年、ジョーンズはこれまでの作品をすべて破棄し、 1955 年に最初の「フラッグ(旗)」を制作した。新聞紙を貼ったカンバスにエンコースティックで星条旗を描き、絵肌の物質性と国家の記号を同一画面に押し込めた象徴的事件である。続く「標的(Target)」「数字」「アルファベット」シリーズはいずれも、観客がすでに「意味」を知っている記号をモチーフに選び、絵画の身振りそのものを観察可能にした。

3. レオ・キャステリ画廊と決定的なデビュー

1957 年末、画廊主レオ・キャステリがラウシェンバーグを訪問した際に、隣のスタジオでジョーンズの作品を見て即決で個展を約束した。 1958 年 1 月のキャステリ画廊個展は、 MoMA 館長アルフレッド・バーが 4 点を購入する歴史的な成功となり、 28 歳のジョーンズは戦後アメリカ美術の中心に飛躍した。

4. 地図・カウントダウン・ハッチング

1960 年代に入ると、ジョーンズは合衆国の地図、灰色の油彩、グレイ・ポリス(鉛色の調合絵具)、ハッチング(影付け線)といった、より抽象的な語彙へと移行する。1964 年の『地図(Map)』はアメリカ各州の輪郭をエンコースティックで描き出し、地理という日常記号を絵画的物質に変換した。1972 年からは「クロスハッチ」シリーズで純粋に抽象的な斜線パターンに転じる。

5. 友情・喪失・引用(1980 年代以降)

1980 年代から、ジョーンズの絵画は自伝的・引用的な要素を強めた。グリューネヴァルトのイーゼンハイム祭壇画、ピカソ、ゴーガン、家族の影絵——古今の名作と私的記憶を同一画面に重ね、観察可能な記号から、より暗く個人的な領域へ進んだ。 2018 年の MoMA 回顧展「Mind/Mirror」(ホイットニー美術館・フィラデルフィア美術館の共同開催、 2021)は、彼の 70 年以上の活動を網羅的に整理した記念碑的展覧会である。

代表作・代表事例

制作年作品シリーズ位置づけ
1954-55フラッグ戦後アメリカ美術の象徴的作品
1955白い旗白一色のフラッグ
1955標的(数字付き四つの顔)標的記号と物体の同居
1958三つの旗奥行を持つ多層フラッグ
1960絵筆と缶レディメイドのブロンズ化
1961偽の出発/地図地図地理記号の絵画化
1972-1980クロスハッチ抽象純粋なパターン絵画への移行
1985季節シリーズ四季自伝・引用の集大成

技法・特徴

  • エンコースティック(蜜蝋テンペラ):古代エジプト・ファイユーム肖像画にも用いられた技法。蜜蝋に顔料を溶かしカンバスに塗ることで、即時に固化し筆致が乾燥前に消えにくい。古典的な遅い積層と、抽象表現主義的な身振りを同時に成立させる。
  • 新聞紙コラージュ:エンコースティックの下地に新聞紙を貼り、絵具と紙片を一体化させることで、絵画と現実世界(活字情報)の境界を曖昧にする。
  • レディメイドの再彫刻化:「絵筆と缶」「ライトブルブとフラッシュライト」など、市販のオブジェをブロンズで鋳造し直すことで、デュシャンのレディメイドを物質的に再翻訳した。
  • 記号の前景化:旗・数字・地図など「すでに知っている対象」を選ぶことで、画面上の身振りそのものを観察可能にする。
  • 引用と回想(後期):1980 年代以降、グリューネヴァルトの祭壇画やゴーガンの版画、自身の家庭写真などを画面に組み込み、自伝的でありつつ多重に引用された絵画を作る。

影響・後世

ジョーンズの「既知の記号を絵画化する」という戦略は、 1960 年代以降の美術にほぼ全方向で影響を及ぼした。アンディ・ウォーホルのドル札・キャンベル缶、リキテンスタインのコミック・パネル、コンセプチュアル・アートの言語的アプローチ、ゲルハルト・リヒターのカラー・チャート——いずれもジョーンズが提示した「あらかじめ意味を持つ対象を絵画にする」型を自分の文脈で展開した後続である。

市場面でも特異な存在で、 1988 年の『フォールス・スタート』(1959)は当時のオークション最高記録を更新し、その後も主要ジョーンズ作品が世界の主要美術館に渡っている。日本では 1988 年・2008 年に大規模な回顧展が開催され、彼の旗・数字・地図シリーズが戦後美術の標準語彙として日本にも定着した。

関連 hub・関連記事

続けてラウシェンバーグ・ウォーホル・ポロックの関連記事を読むと、ジョーンズが「抽象表現主義の身振り」と「ポップアートの記号」のいずれにも完全には属さない、戦後アメリカ美術の中央接続点として読まれる理由が立体的に見えてくる。

よくある疑問(Q&A)

Q1. なぜ旗や数字を描いたのですか?

ジョーンズ自身は「あらかじめデザインされていて、考える必要のないもの」を選ぶことで、画面の上の自分の判断や身振りを観察可能にしたい、と説明しています。記号が「もう完成している」からこそ、絵画的判断を相対化できるという論理です。

Q2. ラウシェンバーグとの関係は?

1955-1961 年に隣接するスタジオで生活し、戦後美術の方向を定める対話を交わしました。互いの作品を行き来しながらアイデアを試した親密な関係で、 1961 年以降は距離を取りますが、両者の影響関係は戦後アメリカ美術史の必須項目です。

Q3. エンコースティック技法とは何ですか?

顔料を蜜蝋(ビーズワックス)に溶かして使う古代以来の絵画技法で、ファイユーム・ミイラ肖像画に代表されます。塗布後すぐに固化するため、筆致や層が乾燥前に潰れにくく、結果としてジョーンズの代表作にみられる「速さと遅さが同居する絵肌」が生まれます。