このページは「パブリック・アート」(topic-public-art)タグの全体ガイドです。パブリック・アート(public art)は美術館の外、街路・広場・駅・公園・ビル前庭などの公共空間に設置される芸術作品を指します。古代の記念碑から現代のサイトスペシフィック・インスタレーションまで、美術と都市・市民・政治の交差点に位置するジャンルです。
パブリック・アートとは何か
パブリック・アート(公共美術)は、美術館の閉じた展示室ではなく、誰もがアクセスできる公共空間に置かれる作品です。記念碑・モニュメント・銅像から、抽象彫刻・壁画・インスタレーション・サイトスペシフィック作品まで多様な形式を含みます。20世紀後半以降、「アート・パーセント・プログラム(建設費の1%を芸術に充てる制度)」などの公共発注制度が世界に広がり、現代美術の重要な実践領域となりました。
- 古代から続く記念碑・モニュメントの系譜
- 20世紀後半の抽象彫刻ブームと批判
- 1980年代以降のサイトスペシフィック・参加型・社会関与へ展開
- 21世紀には銅像撤去運動と歴史記憶の再考が世界的争点
パブリック・アートの主要トピック
1. 古代の記念碑・モニュメント
古代エジプトのオベリスク・スフィンクス、古代ギリシャのアクロポリス・パルテノン神殿、ローマの凱旋門・トラヤヌスの記念柱などは、最古のパブリック・アートと言えます。権力誇示・宗教的崇敬・歴史記憶を表す機能を担いました。
2. 中世〜近代の彫像と広場文化
中世から近代の欧州都市では、広場(ピアッツァ・スクエア)に王侯・将軍・聖人の銅像が設置され、市民空間の象徴となりました。フィレンツェのシニョリーア広場、ローマのナヴォーナ広場、パリのパリ各広場が代表例です。
3. 米国の戦後抽象彫刻ブーム
1960年代以降、米国では連邦アート・プログラム(GSA Art in Architecture)とアート・パーセント・プログラムが制度化され、ジャスパー・ジョーンズ・カルダー・ノグチ・セラなどの抽象彫刻が街中に設置されました。
4. リチャード・セラ『傾いた弧』論争
1989年、ニューヨーク連邦広場のリチャード・セラ作『傾いた弧(Tilted Arc)』が、市民の反発で撤去された事件は「パブリック・アートとは誰のためのものか」を問う画期的論争となりました。作家の意図 vs 利用者の権利の対立を露わにしました。
5. クリスト&ジャンヌ=クロード
1980-2000年代のクリスト&ジャンヌ=クロード夫妻は、『包まれたライヒスターク』『ザ・ゲーツ』『フローティング・ピアズ』など、巨大な公共空間を期間限定で変容させるランドアート的パブリック・アートを実現しました。
6. 日本のパブリック・アート
日本では1970年の大阪万博で岡本太郎の『太陽の塔』が建設され、戦後パブリック・アートの象徴となりました。1980-90年代にはファーレ立川・ヨコハマみなとみらい・東京都内の彫刻設置が広がり、瀬戸内国際芸術祭以降は離島・里山型のパブリック・アートが台頭しました。
7. ストリート・アートと壁画運動
1960-70年代米国で生まれたシカゴ・ウォール、ロサンゼルス・チカーノ壁画から、バンクシー・JR・シェパード・フェアリーら現代のストリート・アートまで、許可なく公共空間に介入する系譜も重要なパブリック・アートです。
8. 銅像撤去運動と歴史記憶
2015-20年代に米国・英国・カナダ・南アフリカで広がった植民地主義・奴隷制を象徴する銅像の撤去運動は、パブリック・アートの歴史記憶機能を再考させました。誰の物語を、誰のために記念するかという根源的問いを提起しています。
世界の有名パブリック・アート
| 作品 | 所在 | 作家・年代 |
| 『自由の女神像』 | ニューヨーク | バルトルディ/1886 |
| 『シカゴ・ピカソ』 | シカゴ | ピカソ/1967 |
| 『フラミンゴ』 | シカゴ | カルダー/1974 |
| 『傾いた弧』(撤去) | ニューヨーク | R.セラ/1981 |
| 『包まれたライヒスターク』 | ベルリン | クリスト/1995 |
| 『クラウド・ゲート(豆)』 | シカゴ | アニッシュ・カプーア/2006 |
| 『太陽の塔』 | 大阪 | 岡本太郎/1970 |
| 『南瓜』 | 直島 | 草間彌生/1994 |
| 『LOVE』 | 各都市 | ロバート・インディアナ/1970 |
| 『パピー』 | ビルバオ | ジェフ・クーンズ/1992 |
パブリック・アートの特徴と論点
- サイトスペシフィック性:その場所のためにつくられる
- 公共発注:政府・自治体・公共団体が委託
- アート・パーセント制度:建設費の0.5-2%を芸術に充当
- 長期メンテナンス:屋外設置のため修復・保守が継続課題
- 市民の同意:誰のために、何を表すかをめぐる論争
- 歴史記憶機能:銅像・記念碑が孕む政治性
- アクセシビリティ:物理的・心理的バリアフリー
影響・現代の動向
21世紀のパブリック・アートは「美の押し付け」から「対話の場」へと性格を変えつつあります。参加型・関係性のアート(リレーショナル・アート)・社会関与型アート(ソーシャリー・エンゲージド・アート)が主流となり、芸術祭(瀬戸内国際芸術祭・横浜トリエンナーレ)の場での実践が中心です。同時に銅像撤去運動が示す通り、歴史記憶・文化遺産・公共空間の倫理を問い直す批評的場としての機能も増しています。キュレーション・都市計画・コミュニティ・デザインの交差点に位置するジャンルです。
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続けて瀬戸内国際芸術祭タグとバンクシータグを読むと、パブリック・アートが地域芸術祭から都市批評まで幅広く現代美術を貫いている経緯が把握できます。