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ベネッセアートサイト直島とは:瀬戸内の島々を覆う現代アート群

ベネッセアートサイト直島(Benesse Art Site Naoshima)は、岡山県・香川県の県境に位置する瀬戸内海の島々(直島・豊島・犬島)と、それを核とする株式会社ベネッセホールディングス・公益財団法人福武財団による現代アート総合プロジェクトの総称である。1992 年の「ベネッセハウス」開館を起点に、約 30 年をかけて美術館・パブリック・アート・古民家アート・建築群を島嶼に展開し、世界の現代アート観光地として確立した。

建築は安藤忠雄がほぼすべての中核施設を設計し、コレクションにはクロード・モネ「睡蓮」、ジェームズ・タレル、アンディ・ウォーホル草間彌生、李禹煥(もの派)、ウォルター・デ・マリアら、20-21 世紀現代アートの代表作家が並ぶ。

主要トピック:3 島と主要施設

直島(Naoshima)

プロジェクトの起点となる島で、約 3,200 人が住む。ベネッセハウス ミュージアム(1992、安藤忠雄設計、美術館+ホテル一体施設)、地中美術館(2004、安藤、半地下建築)、李禹煥美術館(2010、安藤)、家プロジェクト(古民家を作品化、本村地区)、草間彌生「赤かぼちゃ」「南瓜」(直島港、つつじ荘)が代表施設・作品。

豊島(Teshima)

直島の北東に位置する島。豊島美術館(2010、内藤礼/西沢立衛設計、有機的フォルムの単一作品空間)、豊島横尾館(2013、横尾忠則の作品を集めた古民家美術館)、豊島八百萬ラボ。豊島はかつての産業廃棄物不法投棄地から、芸術と自然の島へと再生されたモデルケースとしても知られる。

犬島(Inujima)

直島の北西、岡山県側の小島。犬島精錬所美術館(2008、三分一博志設計、銅製錬所跡地の保存活用)、犬島「家プロジェクト」。明治期の銅精錬遺構と現代アートが融合する、全プロジェクト中もっとも歴史的レイヤーが厚い場所。

主要施設・作品

施設名開館年建築家主要作家
ベネッセハウス ミュージアム1992安藤忠雄ウォーホル、ホックニー、ベイシュバッハ
地中美術館2004安藤忠雄モネ「睡蓮」、ウォルター・デ・マリア、ジェームズ・タレル
李禹煥美術館2010安藤忠雄李禹煥
豊島美術館2010西沢立衛内藤礼「母型」
犬島精錬所美術館2008三分一博志柳幸典
家プロジェクト・角屋1998宮島達男
家プロジェクト・南寺1999安藤忠雄ジェームズ・タレル
豊島横尾館2013永山祐子横尾忠則
赤かぼちゃ2006草間彌生
南瓜(黄かぼちゃ)1994/2022再制作草間彌生

歴史:福武總一郎と直島の再生

プロジェクトの主導者は、ベネッセコーポレーション(旧福武書店)会長・福武總一郎(ふくたけ そういちろう、1945-)である。福武の父・福武哲彦(哲彦は「直島文化村」構想の発案者)の遺志を継いだ總一郎が、1985 年から直島を「子どもたちが集う場所」として開発を始め、1989 年「直島文化村」開設、1992 年「ベネッセハウス」(美術館+ホテル)開館で本格的なアート観光地化が始まった。直島は瀬戸内海工業地帯の島として三菱マテリアル直島製錬所が経済の中心だったが、人口減少と産業転換の中で、文化観光産業へのシフトを島民とベネッセが共同で推進した。これは日本における「企業メセナ+地方創生+観光ブランディング」の代表的成功例として、世界各国の地域再生モデルとして参照されている。

瀬戸内国際芸術祭との連動

2010 年から 3 年に一度、瀬戸内海全域で開催される「瀬戸内国際芸術祭(Setouchi Triennale)」は、ベネッセアートサイト直島の蓄積を基盤に立ち上げられた、日本最大級の現代アート芸術祭である。総合ディレクターは北川フラム(越後妻有「大地の芸術祭」と兼任)、参加島は直島・豊島・犬島・小豆島・男木島・女木島・大島・粟島・伊吹島・本島・高見島・沙弥島の 12 島と港湾都市(高松・宇野)。会期中は来場者 100 万人以上を数え、瀬戸内海の島々全体が「芸術祭」の会場となる。芸術祭は春・夏・秋の三会期に分かれ、それぞれ異なるラインナップで開催される。直島・豊島・犬島の常設施設はベネッセが、その他の島の作品は北川と各島民の共同で運営されている。

建築としての直島:安藤忠雄の連作

  • 地中美術館(2004):地中に半埋没した、外観上は地形に同化する建築。内部は中庭の自然光のみで照明され、モネ「睡蓮」5 点(フランス・モネの庭園で開花するセイヨウスイレンを実際に栽培)が周囲を巡る空間で展示される。
  • 李禹煥美術館(2010):李禹煥の点・線・石・板を主とするもの派作品を、安藤の幾何学空間で展示する。
  • ベネッセハウス(1992):美術館とホテルを一体化した日本最初期の試み。宿泊客は閉館後の作品とも一晩じゅう対峙できる。
  • 南寺(家プロジェクト、1999):島の集落内に新築された木造建築の中に、ジェームズ・タレルの光のインスタレーション「Backside of the Moon」を収める。
  • 建築の島としての直島:安藤忠雄、SANAA(西沢立衛)、藤本壮介、永山祐子、三分一博志ら、現代日本建築のトップアーキテクトが集中的に作品を残す、世界でも稀な「建築の島」となっている。

来島ガイド

  • アクセス:岡山・宇野港または高松港からフェリーで 20-60 分。直島・宮浦港、本村港、つつじ荘の 3 つの船着き場。
  • 移動:島内は町営バス・自転車・徒歩。レンタサイクル(電動アシスト付)が便利。
  • 所要日数:日帰りも可能だが、地中美術館 + ベネッセハウス + 家プロジェクトを観るには最低 1 泊 2 日。豊島・犬島も加えると 2 泊 3 日が標準。
  • 予約:地中美術館は完全事前予約制(2022〜)。ベネッセハウス宿泊客は他施設も優先的に観覧可能。瀬戸内国際芸術祭期間は混雑度が一気に上がる。
  • 季節:春・秋がベスト。夏は暑さと混雑、冬はフェリー欠航リスクと施設一部休業に留意。

関連記事

続けて草間彌生のドット世界を読むと、直島の象徴「赤かぼちゃ」「南瓜」が、草間の作家活動全体の中でどう位置づけられるかが分かる。

家プロジェクト:本村集落のアート再生

直島本村地区の家プロジェクト(Art House Project)は、1998 年から段階的に展開された、廃屋となった古民家を現代美術空間に再生するプロジェクトである。現在は計 7 つの家屋作品(角屋・南寺・きんざ・護王神社・石橋・碁会所・はいしゃ)が公開されており、それぞれが宮島達男・杉本博司・須田悦弘・大竹伸朗・千住博らの個別作品となっている。古民家の梁や柱、壁の質感を最大限に活かしながら、内部に現代美術のインスタレーションを差し込む構成で、伝統建築と現代美術の対話が極めて緊密に成立している。集落の道に沿って点在する各家屋を巡る経路は、本村地区の路地散策と一体化しており、観光客が集落の生活感そのものを尊重しながら作品を体験するように設計されている。これは「美術館に来る」のではなく「集落の中で出会う」という鑑賞体験で、ホワイトキューブ型美術館への代替モデルとして世界の注目を集めた。

影響:地域型アートプロジェクトのグローバル・モデル

ベネッセアートサイト直島の成功は、世界各地の「地域型アートプロジェクト」に大きな影響を与えた。瀬戸内国際芸術祭の母体となっただけでなく、新潟「大地の芸術祭」、奈良「奥大和 MIND TRAIL」、栃木「中之条ビエンナーレ」など、日本国内の地域芸術祭の主要モデルとなった。海外でも、フランス・ストラスブール「アール&カンパーニュ」、台湾・台南「Mattauw 大地藝術祭」、韓国・釜山ビエンナーレなど、企業メセナと地方再生を組み合わせた事例が直島を参照している。森美術館東京都現代美術館といった都市型現代美術館とは別の経路で、瀬戸内海という地理特性そのものをコンテンツ化した点が、直島モデルのもっとも独自な貢献となっている。

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